こんにちは!マナラボの菅野です。

今回は、2025年に関税法で明文化されたOn-the-Spot(OTS)取引制度について、制度創設から法制化までの歴史をぎゅっとまとめてご紹介します!

この制度、実は「つい最近できた新制度」ではなく、約25年の実務運用を経て、ようやく法律にたどり着いたベトナム独特の制度なんです。

グレーゾーンとして扱われていた時代もあれば、制度廃止の危機に陥った時期もある。今回はそのすべてを、しっかりと、でも親しみやすく解説します!

OTS制度って、最近できた制度じゃないの?

「OTSって最近できたんでしょ?」って思っている方、実はかなり多いです。
でも違います。OTS制度は1998年頃から輸出加工をベースとした実務対応として始まり、政令や通達の中で形を変えながら生き延びてきた仕組みなんです。

On the  Spot取引制度の流れをざっくり年表で整理!

まずはこちらをご覧ください!流れを見ましょう。

年(時期)制度に関する主な動き・変更点
1998年政令・通達など下位法規で OTS取引スキームを初めて導入。外国から受注した加工品等を国内引渡しする場合に輸出入と見なす特例が運用開始。
2005年商法において、受託加工品を「国内で輸出(xuất khẩu tại chỗ)」できる旨を規定。OTS取引が初めて上位法で言及。
2013年VAT 0%の仕組みを法令化(政令209/2013/NĐ-CP)。国内引渡しの輸出に対しても0%税率適用が可能に。
2015年政令08/2015/ND-CPの第35条にOTS制度が初めて明文化され、3類型(a〜c)を分類。通達38/2015/TT-BTCで具体手続も整備。
2018年政令69/2018/ND-CPにより、外国企業が「現地に拠点を持たないこと」がOTS利用の条件に追加。制限が明確に。
2023年5月税関総局がOTS制度の削除を提案。政令08の第35条を丸ごと廃止する方向性が公文で示され、企業に不安広がる。
2024年9月財務省が政令改正案を公表。外国商人(非拠点)のみに1年猶予の経過措置を提示。業界からの反発強まる。
2025年3月欧州商工会議所などが首相に制度の維持と法制化を要望。首相が即時再検討を指示し、法制化の流れへ。
2025年6月25日OTS取引が初めて関税法(第47a条)に明文化され、国会で可決。
2025年7月1日改正関税法施行。OTS制度が法的に「使える制度」に進化。VAT0%も付加価値税法側で明記。

1998年〜2015年:政令と通達で生きてきた制度

ベトナムのOTS取引は、外国企業から委託を受けた加工品を、国内の他の企業へ引き渡すというスキームでスタートしました。当時は「輸出扱い」として税務・通関上の手続きが簡素化され、非常に便利な制度でした。

ただしこの時点では、関税法にも商法にも「OTS」という言葉はなく、あくまで政令・通達での運用に過ぎません


2015年:第35条での制度明文化された!

2015年の政令08/2015/ND-CPで、ようやくOTS制度が「条文」に登場します。

第35条第1項:
「輸出入に見なされる国内取引(Xuất nhập khẩu tại chỗ)」には以下のケースが含まれる:
(a)外国商人から委託加工を受けたベトナム企業が、外国商人の指示で国内の別企業に納品する場合
(b)国内企業と輸出加工企業(EPE)・保税区域間での取引
(c)外国商人とベトナム企業間の売買で、外国商人が国内の他企業へ引き渡しを指示する場合

このように**3分類(通称:a〜c類型)**が明確化されたことで、企業のスキーム設計がぐっとやりやすくなりました。これよく見る条文です。

>>ベトナムにおけるOn the spot Export and Import(みなし輸出入通関制度)の3つのパターンを図解で解説!

2018年:制限条件「外国商人が拠点を持たない場合」

しかし…順風満帆にはいきませんでした。

2018年の政令69/2018/ND-CPで、「外国商人がベトナムに現地拠点(現法、支社、駐在員事務所など)を持たない場合に限り、OTSが適用される」という条件が追加されました。

つまり、外国親会社がベトナムに駐在員事務所を置いていたら、もうOTSは使えない。
この時点から、「使えないOTS」が企業の中で現実化していきました。

⚠️ 2023年:制度廃止の危機と混乱

2023年5月、税関総局は以下の公文を発出します。代表的なのは以下!

  • 公文2587/TCHQ-GSQL(2023年5月29日)
     → 政令08の第35条を削除提案

  • 公文2588/TCHQ-GSQL(同日)
     → 各省庁・税関へ制度廃止についての意見照会

このとき、「OTS制度そのものがなくなるらしい」という噂が企業に広がりました。
実際に現場の税関では申告が通らない・税務上の優遇が否認される事例が相次ぎ、制度の信頼性が揺らいだ時期でした。

2025年:法制化の鍵は「現場の声」と「政府の柔軟さ」

そんな状況を打破したのが、企業側からの声でした。

特にEuroCham(欧州商工会議所)やVITAS(ベトナム繊維協会)などが、「OTSはベトナムの競争力を支えている」として首相へ直接要望

2025年3月、首相は即時対応を指示。
結果、OTS制度は以下のように整理されて、法制化へと至ります👇

2025年6月:OTS制度が初めて関税法に明文化(第47a条)

関税法第47a条(法90/2025/QH15)より抜粋:
「みなし輸出入貨物とは、外国商人とベトナム企業の間の売買・加工・リース・貸与契約に基づき、外国商人の指定によりベトナム国内で引き渡される貨物を指す。これらの貨物は、税関手続きを要し、税関の監査・監督を受ける。」

これまでは政令や通達での根拠しかなかったOTSが、ついに“法律”に書かれたのです。

付加価値税法にも0%VATが明記

これも重要!

もともとOTS取引における0% VAT(非課税扱い)は、通達や政令ベースの運用に過ぎませんでした。
2025年の法改正では、それを関税法ではなく付加価値税法(VAT法)に明記することで、法体系の整合性を保ちながら、制度としての「正式な根拠」が整いました。


おわりに:OTS制度は、“使える”から“信頼できる”制度へ

これまでOTS制度は、「使えるけどグレー」「税関によって解釈が違う」と言われ続けてきました。
でも今は違います。
関税法にも、VAT法にも、きちんと制度として位置づけられたOTSは、これから先、企業にとってより強力な選択肢になるはずです。

今後は、政令・通達でさらに細かい実務指針が整備されていく予定です。
引き続き、私たちもその変化をしっかりウォッチしていきますね!