こんにちは!マナラボの菅野です。

「日本人駐在者の労働許可証、もっと早く出ないの?」

こんな声、現場からよく聞きます。

今回のテーマは、そのもやもやを少し軽くしてくれる新ルール「政令219/2025/ND-CP」です。

>>ベトナム語での解説

2025年8月7日、政府は政令第219/2025/ND-CPを公布し、ベトナムで働く外国人労働者に関する規定を定めました!この政令は、政令第152/2020/ND-CPおよび政令第70/2023/ND-CPの一部内容を置き換え、補足するものです。

新しい政令では、多くの重要な点が改正されました。特に、労働許可証の発給手続きと期間の短縮、および免許不要と確認される事例の追加が行われています。

この記事を読むと、

  • どこが変わったのかがすぐに分かります
  • 実務で「ここ注意!」というポイントが整理できます
  • そして「これなら準備できそう」と前向きになれます

つまり、読んで終わりじゃなくて、動きやすくなる記事かなと思っています。

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労働許可証に関して10日で返事がもらえる時代に

「書類出しても返事が来ない…」
外国人労働者の許可申請は、時に長い待ち時間との戦いでした。実務上は

今回の改正では、発給期間は最長10営業日に。しかも不承認なら3営業日以内に理由を通知してくれるルールがつきました。

シンプルに言えば、「ちゃんと期限を切って返事しますよ」ということです。
これは精神的にもだいぶラクになります。

この法律改正の背景と目的について

背景はシンプルのようです。

半導体、AI、デジタル変革など、新しい分野で外国人の専門人材をもっとスピーディに迎え入れたい。
でもこれまでの制度では、手続きが遅れて採用やプロジェクトのスタートが後ろ倒しになることがあったのです。

「人はいるのに制度が壁」というのは、企業にとっても本人にとってももったいない話です。
だから今回の改正は、「スピードと柔軟さ」を前に押し出しています。

今回の改正の全体像(政令219/2025/ND-CP)

ざっくりいうと、こう変わります。

No.項目改正前改正後
手続き使用需要報告と労働許可証申請は別様式03で一体化(健康診断12か月、犯罪経歴6か月の期限は従来どおり)
発給期間・不承認通知「5営業日」規定だが実務で遅延あり、不承認理由通知なし10営業日で明確化、不承認は3営業日以内に理由通知
発給権限労働局や省労働・傷病軍人・社会事務局など複数機関省人民委員会に集約、複数省勤務は本社所在地省が窓口
免除対象14類型(先端分野は明記なし)15類型に拡大(金融・科学・技術・国家デジタル変革・優先分野追加)
更新・再発行氏名・職務・勤務地変更は修正可、延長制限なしすべて新規申請、延長は1回のみ(最大4年)
免除証明書最大2年で期限切れ→新規申請延長申請が可能(やり直し不要)
電子申請・情報連携限定的、情報連携不十分国家公共サービス・ポータルで申請・結果照会、省庁間連携強化
 

詳しく見ていきましょう!

① 手続き・申請書類の一体化(第18条1項)

第18条1項
雇用主は、外国人労働者の使用需要報告および労働許可証申請を統合した様式により提出する。

これまでバラバラだった「使用需要の報告」と「労働許可申請」が、様式03で一括提出できるようになりました。二度手間が一度で済みます。「使用需要の報告」については以下のリンクを見てください。ちょっと面倒でしたよね。

>>【外国人 VS ベトナム人】労働許可証を取得するのにウェブでベトナム人の募集が必要なの?政令第70/2023/ND-CP号の7条の解説

💡 実務ポイント

  • 健康診断書(発行12か月以内)と犯罪経歴証明(発行6か月以内)の有効期限はそのまま。
  • 添付漏れを防ぐため、様式03をベースに社内チェックリストを作ると安心です。

想定される事例
日本本社→ベトナム子会社へ技術者派遣。以前は需要報告→審査→別途WP申請でしたが、今は様式03で最初からWP申請まで同時提出でき、全体リードタイムを予測可能に。


② 発給期間と不承認通知の明確化(第22条3項)

第22条3項
受理日から10営業日以内に労働許可証を発給する。不承認の場合は3営業日以内に理由を通知する。

数字だけ見ると「5営業日 → 10営業日」に延びたように見えますが、これは現実に合わせて期限を明確化したものです。
さらに不承認時には理由通知が義務化されました。

💡 実務ポイント

  • 不承認理由が文書で届くため、次回の申請改善につなげられます。
  • 計画も立てやすくなります。

想定される事例
過去に“沈黙=差し戻し”で1〜2週間ロスしていた会社が、今は3営業日で理由通知を受け取れ、即日補正対応できています。


③ 発給権限の集約(第4条1項)

第4条1項
省人民委員会は発給、再発給、延長、取消しを行う権限を有する。
複数省での就労の場合、本社所在地の省人民委員会が所管する。

労働局や他の部署に分かれていた権限が省人民委員会に一本化されました。
複数省で働く場合も、本社所在地の省が担当します。

💡 実務ポイント

  • 窓口が明確になり、説明の一貫性が高まります。
  • 初期は省ごとの運用差がある可能性があるので、事前確認を。

想定される事例
窓口はホーチミンの省人民委員会に一本化されシンプルに


④ 免除対象の拡大(第7条15号)

第7条15号
金融、科学、技術、イノベーション、国家デジタル変革、または社会経済発展の優先分野に従事する者は、免除対象とする。

免除対象が14類型から15類型に増加。新しく、先端分野や国家デジタル変革に関する人材が対象になりました。

💡 実務ポイント

  • AIエンジニア、半導体技術者、ODA関連の専門家も該当する可能性があります。

  • 「免除」でも証明書類提出は必須です。

想定される事例
データサイエンティストを海外本社から短期派遣。省の認定が取れれば免除ルートで受け入れ可能に。

No.類型(短くまとめると)具体例
1労働法で定められた特例3か月未満の短期技術者、外国人弁護士など
2LLC出資額3億VND以上のオーナー大口投資家
3株式出資額3億VND以上の会長・取締役株式会社経営層
4ODAプロジェクト従事者国際協力事業の技術者
5外務省確認済み報道関係者国際特派員
6外国政府派遣の教育関係者国際機関設立校の校長
7学生・研修生ベトナム企業でのインターン
8外交団構成員の親族大使館員の家族
9公用旅券保持者外交官補佐
10商業的プレゼンス設立責任者新拠点設立担当
11無償ボランティア(国際条約)国際NGO活動員
12国際協定実施者県と海外自治体の派遣
13管理職・専門家等の短期就労や企業内転勤90日未満のPM、海外本社からの転勤者
14教育訓練省確認済み教育関連国際カリキュラムの教授
⭐️15省庁確認済みの特定分野就労AIエンジニア、フィンテック専門家

例えば、日本本社から短期派遣されるAIエンジニアや、ODA案件の技術者がこれに当たる場合があります。
もちろん免除でも、証明書類の準備は必要です。ここは誤解しないようにしてください。


⑤ 更新・再発行規定の改定(第21条2項・第22条1項)

第21条2項
労働許可証の延長は1回のみとし、延長後は新規申請を行う。
第22条1項
氏名、生年月日、国籍、パスポート番号、職務、勤務地、雇用主の変更は新規許可証の発給が必要。

従来はパスポートや職務、勤務地変更時に許可証修正が可能でしたが、今後はすべて新規申請が必要になります。延長は1回のみ、最長4年。

💡 実務ポイント

  • 人事異動やパスポート更新時に要注意。

  • 役職名変更も職務変更扱いになる場合があります。

想定される事例
「Technical Advisor」→「Operations Manager」に変更。従来は記載修正で済んだが、今後は新規申請必須に。面倒?


⑥ 労働許可証免除証明書の延長(第8条2項)

第8条2項
労働許可証免除証明書は、延長申請を行うことができる。

旧制度では最大2年で期限切れ→新規申請でしたが、新制度では延長が可能に。

💡 実務ポイント

  • 国際条約による技術移転専門家、外交官の親族、小規模投資家、短期労働者などが対象。
  • 初回申請時の負担が大きい案件ほど延長メリットが大きいです。

想定される事例
大学との共同研究で来越する客員研究者。延長により、プロジェクト期間全体を一貫して対応可能に。

⑦ 電子申請・情報連携の強化(第27条)

第27条
国家公共サービス・ポータルを通じて書類提出・結果照会を行い、内務省・公安省・中央内務省間で情報を連携する。

申請から結果確認までオンラインで可能に。各省庁間でデータ連携し、処理の迅速化を目指します。

💡 実務ポイント

  • 海外からの申請や進捗確認が可能になり、物理的移動が不要に。
  • スキャン要件や翻訳・認証の順序を間違えると差し戻しになります。

想定される事例
司法記録のオンライン申請と労働許可申請を同時実施。電子データがWP審査側に直接連携され、往復回数が減少。

例えば、日本本社から短期派遣されるAIエンジニアや、ODA案件の技術者がこれに当たる場合があります。
もちろん免除でも、証明書類の準備は必要です。ここは誤解しないようにしてください。

政令219/2025/ND-CP 労働許可証関連 改正ポイント(旧制度比較+影響度)

旧制度と比較すると以下のようになります。

No.改正ポイント旧制度(政令152/2020・70/2023)新制度(政令219/2025)実務への影響度
手続き・申請書類の一体化 (第18条1項)使用需要報告と労働許可証申請は別々に提出。二重手続き。様式03で両方を一括提出可能。健康診断(12か月)、犯罪経歴証明(6か月)の期限は維持。★★★★★
発給期間と審査プロセス (第22条3項)発給期限は「5営業日」規定だが、実務で遅延多く、不承認理由通知義務なし。発給期限を10営業日に明確化。不承認は3営業日以内に理由通知。★★★★★
発給権限の変更 (第4条1項)労働局や省労働・傷病軍人・社会事務局など複数機関が担当。省人民委員会に一元化。複数省就労は本社所在地省が窓口。★★★★☆
免除対象の拡大 (第7条15号)免除対象は14類型。先端分野(金融・科学・技術・イノベーション等)は明示なし。免除対象を15類型に拡大。先端分野・国家デジタル変革・社会経済優先分野を追加。★★★★☆
更新・再発行規定の改定 (第21条2項・第22条1項)氏名・職務・勤務地変更時は既存許可証の修正可。延長制限なし。全て新規申請に変更。延長は1回のみ、最大4年で新規申請必須。★★★★★
労働許可証免除証明書の延長 (第8条2項)最大2年で期限切れ、期限後は新規申請。延長申請が可能に。最初からやり直し不要。★★★☆☆
電子申請・情報連携の強化 (第27条)オンライン申請は限定的だった?。省庁間の情報連携は不十分。国家公共サービス・ポータルで申請・結果照会可能。内務省・公安省・中央内務省が情報連携。★★★★☆
 
 

日系企業・日本人へのインパクト分析をしてみる

企業にとっては、採用から現場投入までの時間短縮が最大のメリットかなあと思います。外国人本人も、手続きが簡単になり免除のチャンスが増えると予想されます。

ただし、書類の不備があれば、短縮効果はゼロになります。「早くなった制度」に合わせて「正確な準備」が求められます。あと実務への影響はやっぱり不明なところもあるのでそのあたりは注意です!

簡便的な実務対応チェックリスト

以下のようなことをチェックしましょう!

  • 採用決定後は新ルールでの申請スケジュールを組む
  • 健康診断書・犯罪経歴証明の期限チェック
  • 本社所在地の省人民委員会との窓口確認
  • 免除対象かどうかを早めに判断
  • 社内の申請書式やフローを最新化

まとめと今後の展望

政令219/2025/ND-CPは、「待たされるストレス」と「書類の二度手間」を減らす改正です。これは外国人採用のハードルを下げる一歩ですが、現場が慣れるまでは運用に揺れが出やすいでしょう!実務と法律には乖離がかならずあります。それが収斂するまでに数年はかかるでしょうね。

早めに情報をつかみ、関係者と連携して、制度の波に上手に乗っていきましょう。


付録:参考資料

  • 政令219/2025/ND-CP原文リンク

  • 関連政令(152/2020、70/2023)

  • 様式03(外国人労働者使用需要報告兼労働許可証申請書)