この記事のもくじ
はじめに|なぜ今「再編」なのか?
2025年4月12日、ベトナム共産党中央委員会が「決議第60号(60-NQ/TW)」を採択しました。
この決議では、全国の地方行政単位(省・市)を現在の63から34へと大幅に統合するという大改革が打ち出されました。
「えっ、省が減るの?」と思った方も多いのではないでしょうか。
その背景には、行政の効率化、分権の推進、そして“国全体をもっと強く・しなやかにする”という目的があります。
✅ ポイント①:2層制への移行とは?
これまでのベトナムの行政構造は「省(市)- 郡 – 社(コミューン)」の3層でした。
今回の改革では、中間にあたる「郡(県や区)」をなくして、「省(市)」と「社(コミューン)」の2層制に統一されます。
比較項目 | 従来の制度 | 2025年7月以降 |
---|---|---|
行政階層 | 省・郡・社 | 省・社 |
中間管理層 | 郡あり | 郡は廃止 |
目的 | 調整型・分担型 | 簡素・効率・責任明確化 |
📝 根拠:決議第60号(2025年4月12日付)セクション5
今回の再編では、これまでの63の省・市(地方行政単位)が、34へと大幅に統合されます。
内訳としては、28の「省」と、6つの「中央直轄市」が新たに再編後の基本構成となります。
つまり、29の地域が統合されて23の新行政単位に再編されることになり、
統合されない「存続組」はわずか11地域のみです。
✅ ポイント②:どの省がどう統合されるの?
今回の再編では、これまでの63の省・市(地方行政単位)が、34へと大幅に統合されます。半分くらいになってしまいますね。
内訳としては、**28の「省」**と、**6つの「中央直轄市」**が新たに再編後の基本構成となります。
つまり、29の地域が統合されて23の新行政単位に再編されることになり、
統合されない「存続組」はわずか11地域のみです。
📍そのまま存続する11の省・市は以下のとおり:
ハノイ市、フエ市、ライチャウ省、ディエンビエン省、ソンラ省、ラングソン省、クアンニン省、タインホア省、ゲアン省、ハティン省、カオバン省
これらは地理的・政治的に重要な位置づけにあるため、再編の対象から除外されています。
一方、それ以外の52の省・市は隣接する地域と統合され、23の新しい行政単位が誕生します。たとえば:
再編例 | 統合前 | 再編後 |
---|---|---|
ホーチミン市 | HCM市 + ビンズオン省 + バリア=ブンタウ省 | 新・ホーチミン市(中心地はHCM市) |
ダナン市 | ダナン市 + クアンナム省 | 新・ダナン市(中心地はダナン市) |
このような大都市中心型の統合により、行政単位が「広域自治体」に進化していくことになります。
リストも掲載しておきます。
ベトナム再編後の34省・市一覧表(決議60号に基づく)
No. | 新しい省・市名 | 統合の有無 | 統合された旧行政単位 | 新しい省都(行政中心地) |
---|---|---|---|---|
1 | ハノイ市 | 統合なし | ハノイ市 | ハノイ市 |
2 | フエ市 | 統合なし | フエ市 | フエ市 |
3 | ライチャウ省 | 統合なし | ライチャウ省 | ライチャウ市 |
4 | ディエンビエン省 | 統合なし | ディエンビエン省 | ディエンビエン市 |
5 | ソンラ省 | 統合なし | ソンラ省 | ソンラ市 |
6 | ラングソン省 | 統合なし | ラングソン省 | ラングソン市 |
7 | クアンニン省 | 統合なし | クアンニン省 | ハロン市 |
8 | タインホア省 | 統合なし | タインホア省 | タインホア市 |
9 | ゲアン省 | 統合なし | ゲアン省 | ヴィン市 |
10 | ハティン省 | 統合なし | ハティン省 | ハティン市 |
11 | カオバン省 | 統合なし | カオバン省 | カオバン市 |
12 | トゥエンクアン省 | 統合あり | トゥエンクアン省+ハザン省 | トゥエンクアン市 |
13 | ラオカイ省 | 統合あり | ラオカイ省+イエンバイ省 | イエンバイ市 |
14 | タイグエン省 | 統合あり | タイグエン省+バクカン省 | タイグエン市 |
15 | フート省 | 統合あり | フート省+ヴィンフック省+ホアビン省 | ヴィエットチー市 |
16 | バクニン省 | 統合あり | バクニン省+バクザン省 | バクザン市 |
17 | フンイエン省 | 統合あり | フンイエン省+タイビン省 | フンイエン市 |
18 | ハイフォン市 | 統合あり | ハイフォン市+ハイズオン省 | ハイフォン市 |
19 | ニンビン省 | 統合あり | ニンビン省+ハナム省+ナムディン省 | ニンビン市 |
20 | クアントリ省 | 統合あり | クアンビン省+クアントリ省 | ドンホイ市 |
21 | ダナン市 | 統合あり | ダナン市+クアンナム省 | ダナン市 |
22 | クアンガイ省 | 統合あり | クアンガイ省+コンツム省 | クアンガイ市 |
23 | ザライ省 | 統合あり | ザライ省+ビンディン省 | クイニョン市 |
24 | カインホア省 | 統合あり | カインホア省+ニントゥアン省 | ニャチャン市 |
25 | ラムドン省 | 統合あり | ラムドン省+ダクノン省+ビントゥアン省 | ダラット市 |
26 | ダクラク省 | 統合あり | ダクラク省+フーイエン省 | ブオンマトート市 |
27 | ホーチミン市 | 統合あり | ホーチミン市+ビンズオン省+バリア=ブンタウ省 | ホーチミン市 |
28 | ドンナイ省 | 統合あり | ドンナイ省+ビンフオック省 | ビエンホア市 |
29 | タイニン省 | 統合あり | タイニン省+ロンアン省 | タンアン市 |
30 | カントー市 | 統合あり | カントー市+ソクチャン省+ハウザン省 | カントー市 |
31 | ヴィンロン省 | 統合あり | ヴィンロン省+ベンチェ省+チャヴィン省 | ヴィンロン市 |
32 | ドンタップ省 | 統合あり | ドンタップ省+ティエンザン省 | ミトー市 |
33 | カマウ省 | 統合あり | カマウ省+バクリエウ省 | カマウ市 |
34 | アンザン省 | 統合あり | アンザン省+キエンザン省 | ラッギア市 |
この表は、決議60号(60-NQ/TW)に添付された公式リストに基づいています。実務でご活用の際や、社内説明用にもそのまま使いやすくなっています。
また、再編の効果としては以下のような点が注目されています:
- 地方政府のトップ(党省委員会書記や人民委員会委員長)のポスト数が大幅に削減
- 意思決定権が中央により集約されることで、政策の一貫性や実行力が向上する可能性も
- 同時に、地方の独立性が弱まるリスクを指摘する声もあります
この再編は、単に地図の線を引き直すだけでなく、ベトナムの国家運営のあり方そのものに関わる大きな変化といえます。
次のセクションでは、実際にどの省がどこに統合されたのか、34の一覧表で詳しく見ていきましょう。
✅ ポイント③:公務員や職員の制度も変わる!
省や郡の統合にともない、当然公務員の数や配置も見直しが行われます。リストラ?と思いますよね。
でも、「リストラ」とはちょっと違います。目指すのは「質の高い組織」だそうです。
評価・選別は以下の観点で行われます。
対象者: 幹部、公務員、公共職員、労働者
評価基準は以下。
- 倫理・責任感・規律意識
- 専門知識・職務遂行能力
- 業務成果・貢献度
- 優秀者の要件(上記1~3に加え):
- 革新性・創造性・責任感・顕著な成果
- 組織に貢献する明確な実績
📘 出典:政令178/2024/ND-CPおよび67/2025/ND-CP(第6条)
💸 退職金や再配置の財源はどうなる?
気になるのは、「早期退職って誰が払うの?」ということですよね。
対象者 | 財源 |
---|---|
国家・地方公務員/軍人/地方職員 | **国家予算(国庫)**によって全額支出 |
公共サービス機関職員(自立型) | 自機関の事業収入および合法的収入源 |
公共サービス機関(財政支援あり) | 事業収入+国庫支援(割合に応じて) |
新体制移行に伴う職業訓練・再教育 | 初年度に限り、基本給総額の5%を追加予算として支給 |
**早期退職(最大5年早期)**対象者 | 保険料(年金・死亡保険)分を国庫から全額支出(年金減額なし) |
各級の政党・国家委託団体職員 | 国家予算による完全補填 |
特別財政メカニズムを廃止する組織(2025年以降) | 国家予算により制度支援を継続 |
📘 出典:政令178/2024/ND-CP 第16条・67/2025/ND-CP 第14〜15条
制度導入・人員整理のスケジュール(関連:Resolution 74/NQ-CP)
タスク | 実施主体 | 期限 |
---|---|---|
制度展開に関する全国会議 | 内務省・関係省庁 | 2025年4月18日まで |
コミューンレベルの再編計画提出 | 各省人民委員会 | 2025年5月1日まで |
政府提出用の精査・整備 | 内務省 | 2025年5月30日まで |
国会での審査・承認 | 法務委員会等 | 2025年6月20日まで |
全体の再編結果の報告 | 内務省 | 2025年9月20日まで |
✅ 企業や住民にはどんな影響が?
日系企業や現地法人、駐在員にも関係大アリです。
- 登記住所の変更・書類の提出先の再確認が必要(面倒じゃない?)
- 地方自治体との調整先(例:税務署や労働局)が変わる
- 「社(コミューン)」レベルでのワンストップ公共サービスセンターが設置予定
✨ まとめ|この再編が意味するもの
ベトナムが進める今回の行政再編は、単なる“省の統合”ではありません。
これはまさに、1986年のドイモイ政策(刷新政策)以来の国家改革の大本命とも言える内容です。
「63省市→34省市」「郡の廃止」「2層制への移行」──数字としては一見シンプルに見えますが、その裏には、
行政の再設計・組織文化の変革・権限構造の見直しという、きわめて深い制度改革が進められています。
「人が減る=効率が上がる」とは限らない
改革のひとつの目玉が「公務員の人員整理」ですが、人数を減らすこと自体が目的ではありません。
本当に問われるのは、“少人数でどう回すか”“残った人がどう動くか”。つまり、
制度そのものより、「運用」と「信頼」が改革の成否を分けるということです。
住民の声に耳を傾けられる新しい役所。企業の申請がスムーズに通る役所。そうした「顔の見える行政」が実現できるかどうか──それがこの改革の本質です。
🌐 外国企業・投資家はどう備えるべき?
今回の再編により、企業にとって以下のような変化が生じます:
- 行政窓口の再編・変更(許認可や税務の提出先など)
- 社内住所登録や登記情報の更新対応
- 人事制度・労務管理の地方ルール再確認
- 地場パートナーとの関係再構築
👉 「行政が変われば、企業の手続きも変わる」
これは、投資戦略やコンプライアンス対応において重要なポイントです。
🔍 参考資料
- 決議第60号(60-NQ/TW)2025年4月12日発行
- 政令178/2024/ND-CP(改正:政令67/2025/ND-CP)