マナラボの菅野です。
今日のテーマは『固定資産のDDのチェックリスト』というテーマでお伝えします。
なおDDについてわからないと言う人もいると思いますのでその方は以下をチェックしてください。
>>ベトナムにおける財務デューデリジェンス(DD)の全体像を解説
ベトナム現地法人の買収や投資の際に必要な「固定資産」に関するデューデリジェンス(DD)です。これは、企業の財務健全性を確認するための第一歩であり、隠れたリスクを洗い出すために不可欠なプロセスです。
特にベトナムでは、企業文化や慣習の違い、コンプライアンスの意識の違いから、日本企業が想定していないリスクが存在することがあります。以下では、ベトナム現地法人の固定資産に関する具体的なチェックリストを紹介します。
ベトナムの勘定科目コードは以下の通りです。勘定科目のルールをきちんと把握しておくといいでしょう。
>>ベトナムの勘定科目211 (有形固定資産)について徹底解説!【勘定科目解説シリーズ】
この記事のもくじ
固定資産のDDチェックリストの紹介
チェックリストのサンプルは以下の通りです。あくまでサンプルですので実際のDDにはこれをもとに戦略を強弱つけてたてることが大事です。ある程度網羅的だとは思いますが、以下が完璧なリストではありません。
カテゴリ | チェック項目 | チェック |
---|---|---|
1減価償却および評価制度の確認 | 1-1 減価償却方法が適切か(定率法・定額法など) | □ |
1-2 耐用年数の設定方法と減価償却累計額のバランスは妥当か | □ | |
1-3 正常稼働中の資産(特に事業用不動産)の評価が適切か | □ | |
2資産の実態把握・管理 | 2-1資産の内訳(本社・工場別など)を把握し、取得価額と減価償却累計額の整合性が取れているか | □ |
2-2設備の稼働状況を把握し、遊休資産や除売却予定資産の有無を確認しているか | □ | |
2-3 遊休資産や事業外資産(非中核資産)の評価が行われているか | □ | |
2-4現物確認(ナンバリング・棚卸)などの管理体制が整備されているか | □ | |
3設備投資と建設仮勘定 | 3-1 建設仮勘定の残高推移を確認し、滞留資産が存在しないか | □ |
3-2 過去の設備投資と現在の生産能力が整合しているか | □ | |
3-3今後の設備投資について、契約・発注などのコミットメントが存在するか | □ | |
4 権利関係と制限リスク | 4-1不動産(建物・土地利用権)の登記状況が確認できているか | □ |
4-2資産の使用または処分に制限(担保設定・留保等)がないか | □ | |
4-3資産除去債務が適切に認識され、除去費用の内容が明確になっているか | □ | |
5 関係会社・特殊取引 | 5-1 関係会社との間での有形固定資産の売買や貸与の実態を把握しているか | □ |
この表は、実務でのDDチェック時にそのまま使える構成になっています!
1. 減価償却および評価制度の確認グループ
まずはこれです。
1.1_減価償却方法が適切か(定率法・定額法など)?
ベトナムでは、定額法が一般的です。ほぼ定額法。
ここはあまり論点になりません。なお、減価償却費の基礎的な概念については以下を参照ください。
>>【図解あり】インドの製造会社で経理部門の責任者だった公認会計士が説明する!「減価償却費」ってなに?
1.2_耐用年数の設定方法と減価償却累計額のバランスは妥当か
ベトナムでは基準で定められている減価償却の耐用年数に幅があります。例えば7年から15年など。この選択の妥当性について確認する。
以下のリンク先により減価償却費の対応年数について確認してください。
>>ベトナムの固定資産の減価償却計算の耐用年数表、【日本との比較あり】
1.3_正常稼働中の資産(特に事業用不動産)の評価が適切か
正常に稼働している資産の評価が適切かを確認します。
下記に述べる遊休資産以外の有形固定資産の評価をします。売却予定があるのか?そうであればその値段を契約書等で確認する必要があります。
2. 資産の実態把握・管理グループ
まずはこれです。
2.1_資産の内訳(本社・工場別など)を把握し、取得価額と減価償却累計額の整合性が取れているか?
資産の内訳を確認し、資産の配置と帳簿上の記録が一致しているかを確認します。
各拠点ごとの固定資産明細を確認し、取得価額と減価償却累計額のバランスが適切かを検証します。償却の進捗も確認しましょう。もし償却済みの固定資産ばかりだとすれば更新の投資の対象となっていない可能性もあり、将来的な期待も薄いのかもしれないという考えもできます。
2.2_設備の稼働状況を把握し、遊休資産や除売却予定資産の有無を確認しているか
非稼働資産の存在とその管理状況を確認します。
稼働率の低い設備や使用予定のない資産について、適切な評価や処分計画があるかを検証します。質問によって確認するといいでしょう。買収対象の会社が遊休資産のリストを作成していればそれも入手しましょう。
2.3_遊休資産や事業外資産(非中核資産)の評価が行われているか
事業に直接関係しない資産の評価が適切かを確認します。
市場価値や売却可能性を考慮し、遊休資産や事業外資産の評価が妥当であるかを検証します。質問も有効的です。またこの資産に関する減価償却費が損金にならないなどの論点もあるのでその辺りも要注意。
2.4_現物確認(ナンバリング・棚卸)などの管理体制が整備されているか
資産の実在性と管理体制を確認します。
固定資産台帳をしっかり作成して、実在性を確認しているか?どうかを確認します。
3. 設備投資と建設仮勘定グループ
続いて設備投資等に関するチェック項目です。
3.1_建設仮勘定の残高推移を確認し、滞留資産が存在しないか
建設仮勘定の長期滞留がないかを確認します。
建設仮勘定の残高が適時に本勘定へ振替えられているか、滞留している場合はその理由と対応策を検証します。滞留している場合にはその資産性も怪しいです。
3.2_過去の設備投資と現在の生産能力が整合しているか
設備投資の成果と生産能力の関係を確認します。
過去の設備投資が生産能力の向上に寄与しているか、投資効果が適切に現れているかを検証します。
3.3_今後の設備投資について、契約・発注などのコミットメントが存在するか
将来の設備投資計画とその契約状況を確認します。
既存の契約や発注書を確認し、将来のキャッシュフローへの影響や資金計画の妥当性を検証します。設備を発注済みであれば将来お金を払う必要性があるのでその影響を評価します。1億円で買収したのはいいけど50億円のキャッシュアウトが買収後すぐにあるとなるとその影響を評価したいですよね。
4. 権利関係と制限グループ
続いて権利関係に関するチェック項目です。
4.1_不動産(土地・建物)の登記状況が確認できているか
不動産の所有権や使用権が明確かを確認します。
登記簿(ピンクブックとかレッドブック)や契約書を確認し、所有権の有無や使用権の範囲が明確であるかを検証します。これがないと危険です。
4.2_資産の使用または処分に制限(担保設定・留保等)がないか
資産の自由な使用や処分が可能かを確認します。
担保設定や契約上の制限がないかを確認し、資産の流動性や処分可能性を検証します。
4.3_資産除去債務が適切に認識され、除去費用の内容が明確になっているか
将来の資産除去義務が適切に計上されているかを確認します。
法的義務や契約上の義務に基づく資産除去債務が適切に認識され、関連費用が見積もられているかを検証します。
5. 関係会社・特殊取引グループ
続いて関係会社間取引に関するチェック項目です。
5.1_関係会社との間での有形固定資産の売買や貸与の実態を把握しているか?
関係会社との取引が適正かを確認します。
関係会社との資産取引について、取引条件や価格設定が市場価格と乖離していないか、適正な手続きが行われているかを検証します。
有形固定資産DDのチェックリストのまとめ
ベトナムでのM&Aや投資を検討する際、有形固定資産のデューデリジェンス(DD)は、リスク評価と投資判断の要となります。特にベトナムでは、日本とは異なる会計基準や税務制度、実務慣行が存在するため、慎重な確認が求められます。
1. 減価償却と耐用年数の確認
ベトナム会計基準(VAS)では、定額法、定率法、生産高比例法が認められていますが、実務上は定額法が一般的です。定率法や生産高比例法を適用する場合、資産の性質や企業の収益計画に基づき採用の合理性があること等、一定の条件を満たし、原則として会社設立から10日以内に管轄税務局に届け出が必要です。また、耐用年数は、通達45号で定められた範囲内で企業が判断しますが、税務当局は耐用年数をできるだけ長くするべきと考える傾向があるため、短めの耐用年数を設定する場合には、客観的な資料や合理的な説明が必要です。
2. 資産の実態把握と管理体制
資産の取得価額と減価償却累計額の整合性を確認し、設備の稼働状況や遊休資産の有無を把握します。また、現物確認やナンバリング、定期的な棚卸の実施状況を確認し、資産の実在性と管理体制の整備状況を検証します。
3. 建設仮勘定と設備投資の状況
建設仮勘定の残高推移を確認し、滞留資産が存在しないかを検証します。また、過去の設備投資と現在の生産能力が整合しているか、今後の設備投資について契約・発注などのコミットメントが存在するかを確認します。
4. 権利関係と制限リスクの把握
不動産(土地・建物)の登記状況を確認し、資産の使用または処分に制限(担保設定・留保等)がないかを確認します。また、資産除去債務が適切に認識され、除去費用の内容が明確になっているかを検証します。
5. 関係会社との取引の確認
関係会社との間での有形固定資産の売買や貸与の実態を把握し、取引条件や価格設定が市場価格と乖離していないか、適正な手続きが行われているかを確認します。
これらのチェックポイントを通じて、ベトナム現地法人の有形固定資産に関するリスクや課題を明確にし、適切な対応策を講じることが可能となります。