ラボの菅野です。
ベトナムに駐在することが決まったとき、ふと浮かぶのがこの疑問:
「労働許可証を取るには、ベトナムで給与を受け取らなきゃダメ?」
じつはこの点、駐在員事務所と現地法人では事情が大きく異なります。税務や社会保険の対応にも関係するので、初動で間違えると後が大変です。この記事では、関連するベトナム法令を根拠に、給与支払いと労働許可証の関係をわかりやすく解説します。
この記事のもくじ
3分で押さえる結論
Q. 労働許可証を取得するには、ベトナム現地法人から必ずドンで給与をもらう必要がある?
A. いいえ、法的には必要ありません。
ただし、”どういう契約形態で申請するか” によって、給与の支払い元との整合性が問われます。
- 駐在員事務所(Representative Office):日本本社からの給与支給で問題なし。
- 現地法人(Subsidiary):原則、現地法人からの支給。ただし、日本本社との分担や立替精算も可能。
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外国人が労働許可証(Work Permit)を要するケース
政令152/2020/ND-CP 第2条により、ベトナムで一回で30日を超える就労を行う外国人は、原則として労働許可証の取得が義務付けられています。
ただし、同政令第7条および第8条では以下のような免除例が定められています。
- WTO約束に基づく企業内異動(Intra-corporate transferee)
- 12カ月以上同一企業で勤務し、グループ内の他国法人に派遣される管理者・専門家など
申請に必要な主な書類(派遣・直接雇用)
- 派遣辞令・在籍証明(企業内異動)
- 労働契約書(現地直接雇用)
- 学歴証明、職務経歴証明、健康診断書、無犯罪証明書
ベトナム法における給与支払いの原則
条文を調査してみましょう。
労働法2019年第95条第2項の規定
“給与はベトナムドンで支払う。ただし、外国人労働者の場合は当事者間の合意により外国通貨で支払うことができる。”
外国人労働者の給与支払い通貨に関し、「給与はベトナムドンで支払う。ただし労働者が外国人の場合は契約で定めた外貨で支払い可能」と規定。この条文により、外国人駐在員への本国通貨払いが法的に認められています。
この条文により、外国人労働者に限っては給与の支払い通貨・支払元を柔軟に設計できます。
国家銀行通達32/2013/TT-NHNN 第4条第14項
“企業は、労働契約に基づいて企業で働いている外国人労働者に対し、給与、賞与、手当およびその他の合法的な所得を外貨で支払うことができる。”
外国為替管理に関する法令: 外国為替管理条例28/2005/PL-UBTVQH11号第22条および国家銀行通達32/2013/TT-NHNNなどにより、ベトナム国内における外貨使用は禁止されています。
しかし同通達では**「外国人従業員への給与・賞与・手当の支払い」は許可事項として明示されており、中央銀行も外貨建て給与を認めています。実際、ジェトロの為替管理解説でも「駐在員等外国人従業員への給与支払」は外貨取引の例外として列挙**されています。実務上もありますしね。
これにより、ベトナム国外の企業が国外から直接給与を支払うことも合法であり、駐在員の多くがこの形を採用しています。
ケーススタディ1:駐在員事務所の場合
派遣契約ベースの赴任
政令152/2020/ND-CP 第3条により、「企業内異動(Intra-corporate transferee)」というカテゴリーがあり、日本本社からベトナム駐在員事務所への派遣はこの形に該当します。
提出書類の主なポイント:
- 日本本社からの派遣辞令
- 日本で12カ月以上勤務したことの証明
給与パターン
- 日本本社100%払い(主流かなと。そもそも駐在員事務所は決算書がない)
- 日本本社立替 → 駐在員事務所から精算
実務上の注意点
- ベトナムでの社会保険は免除(政令143/2018/ND-CP 第2条)
- 所得税(PIT)は自己申告制となり、納付漏れに注意
法的根拠と実務取扱い: 駐在員事務所に赴任する外国人は、その雇用契約自体は日本の親会社との間で継続し、駐在員事務所とは現地で新たに雇用契約を結ばない形が一般的です。
ベトナム法では、このような社内転勤者について給与支払方法や現地雇用契約の締結有無を規定する条文はありません。多くの当局担当者も「企業内異動の外国人は本社の社員であるため、給与支払いや契約締結は本社側で行うもの」と非公式に理解していると思います。
したがって、日本の本社との雇用契約・給与体系を維持したままでも労働許可証取得上は問題なく、本社発行の「赴任辞令・任命書」や「在籍証明(○年以上勤務)」をもって申請書類とする運用が行われています。
実務では、申請時に本社からの派遣契約書や辞令(ベトナム語訳付き)を提出し、駐在員事務所長の印鑑で申請することで対応可能です。なお、駐在員事務所は法人格を持たないものの、労働許可証申請者(雇用主)として手続き自体は現地法人の場合とほぼ同様に行われています。現行法上、駐在員事務所だからといって労働許可証が不要になる特例はなく、所長を含め全ての外国人駐在員に労働許可証取得が求められます。
そのため、日本本社からの派遣社員であっても、赴任前にベトナム側で所定の手続きを経て労働許可証を取得する必要があります。
(補足) なお、企業内異動者はWTOスケジュールで約束された11分野のサービス業種に該当する場合、労働許可証が免除され得ます(労働法2019第154条1項)。
ただし、駐在員事務所は投資形態ではないため恩典は限定的で、免除該当とならない限り全て労働許可証の取得が必要です。また、駐在員事務所で働く外国人にも労働法の適用があり、勤務日数や税務上は現地採用社員と同様に扱われます。社会保険については、企業内異動形態の外国人は強制加入対象外と規定されていますが(2014年社会保険法および政令143/2018/ND-CP)、これも本社雇用が前提であることからくる扱いです。
ケーススタディ2:現地法人の場合
雇用形態の2つのモデル
現地法人との直接雇用(労働契約書の提出)
企業内異動として現地法人に派遣(派遣契約+在籍証明)
給与支払いの原則
契約書に明記されていれば:
- 外貨払いも可能(労働法95条2項)
- 本社と現地法人の分担払いも可能
実務的注意点
- 社会保険は原則加入義務あり(2014年社会保険法 第2条)
- 現地法人側での給与分はPITの源泉徴収義務あり
- 本社負担部分は税務上の損金算入要件に注意
参考:日本からの給与分が適正に立替契約されていないと、ベトナム法人の経費計上が否認される恐れあり(財務省通達等)
JETRO・専門機関による補足解説
今回の論点に関して、JETROや専門コンサル企業の解説記事も参考になります。JETROの公開資料では、外国人駐在員のベトナム赴任に際し「現地法人ではなく駐在員事務所であっても外国人には労働許可証が原則必要」であること、そして「給与は日本からの送金で支払うケースが多い」旨が紹介されています(※JETROウェブサイト「ベトナム進出Q&A」等)。
また、大手法律事務所のニュースレターでも、親会社から出向する外国人について現地で労働契約を結ばず本国で給与を支給する取扱いが可能であることが説明されています。さらに、山田コンサルティンググループのレポートでは前述の為替規制のポイント(外国人給与支払いは外貨使用可)が強調されてお、駐在員の給与支払実務について具体例を挙げています。
これら専門機関の解説も合わせて参照することで、本調査対象である「日本本社から給与を受け取る駐在員の労働許可証取得」について、一層明確な理解が得られるでしょう。
日本の本社から派遣されベトナムの駐在員事務所で勤務する日本人駐在員について、給与支払い通貨や支払元が日本本社であることは労働許可証取得の妨げになりません。
ベトナム法は外国人への外貨給与支給を許容しており、本社との契約のまま現地就労する企業内転勤者も適法に労働許可証を取得できます。必要な手続き(現地労働当局への事前届出・労働許可証申請)さえ適切に行えば、駐在員事務所所属の派遣駐在員も問題なく就労ビザ/在留資格を得ることができます。各種法令条文およびJETRO等の解説にも照らし、この結論に相違ないことが確認できました。
上記の比較チャートまとめ
項目 | 駐在員事務所 | 現地法人 |
---|---|---|
雇用契約 | 派遣辞令のみ | 労働契約または派遣契約 |
給与支払い元 | 主に日本本社 | 現地法人(+本社併用可) いろんなパターンあり |
支払い通貨 | 日本円/外貨 | VNDまたは外貨(合意による) |
社会保険 | 原則免除 | 原則加入 |
PIT処理 | 本人申告 | 企業が源泉徴収 |
WP必要書類 | 派遣辞令・在籍証明 | 労働契約・内定通知 等 |
結論:じゃあ、どこから払えばいいの?
繰り返しになりますが「本社からだけの支払いでも、労働許可証は問題なく取得できます!」
え?ほんとに?と思った方。 ちゃんと法律で裏も取れてるんです。
ポイントはここ!
- 労働法2019年 第95条第2項:「外国人には外貨払いもOK!」って書いてあります。
- 国家銀行通達32/2013/TT-NHNN 第4条14項:「契約に基づけば、外貨で払っても大丈夫!」って書いてあります。
- 政令152/2020/ND-CP:「企業内異動って形で、本社→駐在員事務所の派遣もOK!」ってちゃんと明記。
なので、日本本社から給与をもらっていても、 派遣契約や任命書、在籍証明をしっかり揃えていれば、ベトナムでの労働許可証はまったく問題ないのです。
駐在員事務所の場合:
- 本社との契約だけでOK
- 給与はすべて日本払いでもOK
- 所得税はベトナムで申告(源泉はされない)
- 社会保険は免除(企業内異動の場合)
現地法人の場合:
- 原則、現地から支払い(でも外貨や本社負担も可能)
- 分割払いの場合、税務処理がややこしくなるので注意
最後にアドバイス
「労働許可証が通るかどうか」は、誰と契約してるか・書類が揃ってるかが命です。
「どこからお金をもらってるか」は、あくまで整合性の問題なんですね。
現地口座から払うかどうかは、本人の生活や会社の運用次第で決めてOK。「ベトナムで働く=ベトナムで給料もらわなきゃいけない」**という固定観念、今日でさよならしましょう!
付録:引用法令一覧(日本語仮訳)
根拠のまとめです。
法令・通達名 | 内容・該当条文 |
---|---|
労働法2019(第45号) | 第95条第2項:外国人への外貨給与が可能 |
国家銀行通達32/2013/TT-NHNN | 第4条第14項:外国人労働者への外貨給与が合法 |
政令152/2020/ND-CP | 第3条・第9条:企業内異動の定義と申請書類。派遣辞令・在籍証明などで可 |
社会保険法2014 | 第2条:1年以上の契約で加入義務。ただし企業内異動は免除可(政令143/2018で明記) |
政令143/2018/ND-CP | 第2条:企業内異動者の社会保険加入免除規定あり |
JETRO「進出・運営相談」 | 駐在員は本社払いでもWP取得に問題なしと明記 |
お役に立てれば幸いです。