~会計ミスは“誠実対応”が一番。VAS29、政令126、税務管理法をもとに実務を解説~
こんにちは!マナラボの菅野です。
今日は会計担当者なら誰しも一度はヒヤッとしたことがある「財務諸表の誤り」に対する正しい対応方法を、会計・税務の両面から詳しく解説していきます!
「出したあとに誤りに気づいた…どうすればいいの?」
「これって再提出すべき?帳簿だけ直せばOK?」
そんな疑問を、VAS29や政令126/2020/ND-CP、税務管理法などのルールに基づいて、やさしく&深く整理していきます。
この記事のもくじ
第1章:まず確認!「会計誤り」って何?
会計の世界では、「ミス」にもきちんと定義があります。
✅【VAS29(No. 29 – Changes in Accounting Policies, Accounting Estimates and Errors)第22条】
「過去の財務諸表に含まれる重大な誤りとは、算定ミス、誤った会計方針、記録漏れ、事実の誤認、または故意による不正であり、情報利用者の意思決定に影響を与えるもの」
具体的な例とは?
- 売上の記録漏れ(記録忘れ)
- 減価償却を古い基準で計上していた(会計方針誤り)
- 在庫の評価を間違えていた(算定ミス、計算ミス)
- 費用を私的に流用(不正)
などです。金額を間違った、抜け漏れがあった、ダブりがあったですね。以下の記事も見てください。
>>海外子会社、ベトナムの経理で誤りが起きる3つの原因とそれを解決する7つの方法
つづいて「修正事項」があった場合どのように対応するか?です。これは以下の視点で整理するとわかりやすいかも。
- 会計的な視点
- 税務的な視点
です。
第2章:「再提出すべきか?」の判断軸【会計的視点】
財務諸表に誤りが見つかったとき、再提出すべきかは、以下の2つで判断します:
- いつ発見されたか?(「【1】提出前」「【2】提出後の当期誤り」「【3】過年度誤り)
- どのくらい重大か?
いつ発見されたか?のイメージはこんな感じ。提出前ならなかったことにできる。提出後で今期中なら注記でOK。昔の修正であれば正面と向き合って修正。です。
✅【VAS29 第24条・25条】
「重大な誤りが後から発見された場合、財務諸表の比較情報や期首残高を遡及修正し、再表示すべきである」
✅【Law 56/2024/QH15 第6条第6項】
「比較情報の正確性を担保するため、会計誤りがあれば過年度財務諸表を適切に修正し、注記にも記載すること」
会計的な処理判断チャート:
発見時期 | 重大性 | 必要な対応 |
---|---|---|
発行前 | すべて | 通常修正でOK(再提出不要) |
発行後 | 軽微 | 現在年度で修正(注記省略可)影響小さければそのまま進める |
発行後 | 重大 | 遡及修正+比較情報修正+注記+再提出 |
このようになりますね。もう少し細かく分類すると以下のような評価なと。
区分 | 発見のタイミング | 対象年度 | 会計処理の方法 | 注記の必要性 | 財務諸表の修正範囲 | 根拠条文・基準 |
---|---|---|---|---|---|---|
【1】 | 財務諸表提出前に発見 | 当期 | 会計帳簿を修正 → 正しい数値で財務諸表を作成 | ❌ 不要(正しい情報で提出) | 財務諸表自体は既に正しいため再提出不要 | 通達200 第125条(第1項)、VAS29 第22条 |
【2】 | 財務諸表提出後に発見 財務諸表の提出・監査後(公表済) | 当期 | 当期の帳簿で訂正し、翌年度の財務諸表に注記 | ✅ 必要(前年度の誤りを明示) | 再提出なし。注記による開示で対応 | 通達200 第125条(第2項)、VAS29 第22・24条 |
【3】 | 過年度の誤りを後から発見 | 過年度 | 比較情報欄や期首残高を遡及修正(実質的に再構成) | ✅ 必須(影響内容・調整額を詳細に記載) | 前年度比較欄、期首残高、注記を修正(再提出する場合も) | 通達200 第125条(第3項)、VAS29 第23〜28条、Law 56/2024/QH15 第6条第6項 |
ただ金額が小さい場合まで真面目になっていてもだれも幸福になりません。ということで金額の基準もきちんとありますよ。
「発行後に軽微な誤り(immaterial error)を発見した場合、現年度で修正し注記は省略可、影響が小さければそのまま進める」という実務判断の根拠条文は、主に以下の2つです:
根拠1:VAS29(会計基準第29号)
Decision No. 12/2005/QĐ-BTC による第29号「会計方針、見積り及び誤謬の変更」
🔹該当箇所:第24条・第25条および「限界(Impracticability)」の定義
第24条:
重大な過年度誤謬は、原則として「遡及的に修正(retrospective restatement)」されなければならないが、
遡及修正が実務上不可能な場合(または影響が軽微な場合)は「現年度にて調整(prospective)」が認められる。第25条:誤謬の影響が特定期間ごとに測定できない場合、最も早期に可能な期間から期首残高を調整して対応することができる。
根拠2:通達200/2014/TT-BTC 第125条 第2項
提出後に発見された軽微な誤謬については、次年度の帳簿上で修正を行い、影響が軽微であれば注記省略も可
この条文では、重大な場合の注記記載義務は明記されている一方で、軽微であれば注記不要な場合があることを黙示的に許容しています。これはベトナムの実務慣行でも一般的です。
第3章:補足申告が必要なのはどんなとき?【税務的視点】
ここが実務最大のポイントです。
補足申告が必要かどうかは「税額に影響があるか」で決まります!
✅【政令126/2020/ND-CP 第7条第4項】
「税額に影響がない補足は、補足申告書(Form 01/KHBS)は提出不要。補足説明書(Form 01-1/KHBS)または関連資料だけでよい」
税額への影響別まとめ
補足申告ができるのは、誤りがあった申告期限から起算して10年以内。ただし、税務調査や検査の通知が出る前に限る!
内容 | 補足申告書 | 補足説明書 | 説明 |
---|---|---|---|
税額に影響 あり | ✅ 必要 | ✅ 必要 | 納税額、還付、控除に変動がある場合 |
税額に影響 なし | ❌ 不要 | ✅ または社内保管 | 表示ミスや勘定科目の分類違いなど |
✅【税務管理法38/2019/QH14 第47条第1項】
「補足申告は、当該申告期限から10年以内かつ、税務調査通知前であることが条件」
表でまとめると?
パターン | 補足申告できる? |
---|---|
まだ10年以内&調査通知なし | ✅ 可能 |
10年超えている | ❌ 不可(時効) |
10年以内だが調査通知が来た | ❌ 不可(税務署主導の処理になる) |
第4章:ケース別に見る 修正方法と根拠条文・提出書類
つづいてどうやって修正していくの?です。これも気になりますよね。最初にまとめちゃいます。抽象化すれば3つのパターンになるかなと。
誤りのタイプ | 内容の概要 | 税額への影響 | 会計処理 | 提出書類 | 根拠条文・資料 |
---|---|---|---|---|---|
① BSのみ影響 | 貸借対照表内の科目分類ミス(例:定期預金を短期投資に) | ❌ 基本的に影響なし | 比較情報欄の修正、注記で説明。科目残高の修正は原則不要 | 01-1/KHBS(提出または社内保管) | VAS29第23条、政令126第7条第4項 |
② PLのみ影響 | 損益計算書内の科目分類ミス(例:広告費→管理費) | ❌ 影響なし(利益額に変化なし) | 帳簿の再分類。4211(未処分利益)には影響しない。注記のみ。 | 同上 | オフィシャルレター5509/CTBGI-TTHT、政令126第7条第4項 |
③ BS+PLに影響 | 誤りが利益・税額に影響(例:売上原価記録漏れ、減価償却誤適用) | ✅ 影響あり | 遡及修正、BS/PL両方を再構成。421・333口座なども修正。注記・比較欄修正も必要 | 01/KHBS、01-1/KHBS、03/TNDN | VAS29第24〜28条、税務管理法第47条、通達200第125条、政令126第7条 |
- **①・②のような誤りは「表示の誤り」**であるため、PLやBS上の「金額合計」には影響せず、税額も動かない → 補足申告書は不要
- ③のような誤りは「金額に実質的な影響」があるため、申告再提出・帳簿再構成が必要
ケース1:貸借対照表のみに影響する誤り
(例)2020年に定期預金60億VNDを「短期投資」に誤分類していた
📌処理方法:
- 翌年度(2021年)の比較情報欄(前年分)を修正
- 現年度(2021年)の期首残高も調整
- 財務諸表の注記で修正理由を明記
🧾 根拠:VAS29 第23条「Retrospective Adjustment」
🧾 補足申告:税額に影響しないため申告書不要。説明書のみ。
ケース2:損益計算書のみに影響する分類ミス
(例)広告費350百万VNDを「管理費」で処理
📌 この場合:
- 会計上はPL内での科目分類ミス
- 純利益は変わらない → 4211(未処分利益)には影響しない
- 会計帳簿の再分類+注記で十分
根拠:バクザン省税務局 オフィシャルレター 5509/CTBGI-TTHT(2022年9月14日)
「税額に影響しない誤りについては、補足申告書の提出は不要。帳簿と財務諸表のみ修正する」
ケース3:PL・BS両方に影響+税額も変わる(大きな影響)
(例)売上原価60百万VNDの未記録、法人税に影響あり
📌 処理ステップ:
- PL・BS上の該当項目をすべて調整(売上総利益・税金・利益・在庫)
- 421(未処分利益)、333(法人税)、156(棚卸資産)の各口座を調整
- VAS29に基づき、比較情報欄を修正・注記で追記
- 補足申告書(Form 01/KHBS)、補足説明書(Form 01-1/KHBS)、法人税補足(Form 03/TNDN)を再提出
🧾 根拠:VAS29 第24条、通達200/2014/TT-BTC 第125条
🧾 補足申告書類はすべて必須(税額影響あり
第5章:再提出の実務フロー(HTKK提出も)
これまでをまとめると以下のようになります。
誤りを見つけたら…
- ▼ Step 1:BSだけ?PLだけ?両方?
- ▼ Step 2:利益や税額に影響ある?
- ▼ Step 3:調査通知前?10年以内?
- ▼ Step 4:再提出?社内保管だけ?
→ 上記に沿って、帳簿・申告・注記を実施する。会計と税務をわけて理解するといいのかなと思いますね。
あと実務のフローもまとめておきますね。
項目 | 方法 |
---|---|
帳簿修正 | 会計ソフトまたはExcelで仕訳訂正 |
財務諸表 | 比較情報欄・注記・PL/BSの再構成 |
申告書 | HTKKでXML形式で再提出(Form 01/KHBS, 01-1/KHBS, 03/TNDN) |
遅延利息の計算 | 追加税額 × 0.03% × 日数(HTKKで自動) |
まとめ:実務判断の4ステップ
- 誤りの重大性は?(VAS29)
- 過年度かどうか?(Law 56/2024)
- 税額に影響があるか?(政令126)
- 調査通知前か?(税務管理法)
この4つの視点が揃えば、もう補足申告で迷うことはありません!
今回で登場した条文等をまとめておきますね。
分類 | 出典 | 条文・文書番号 | 主な内容・ポイント |
---|---|---|---|
会計基準 | VAS 29(No. 12/2005/QĐ-BTC) | 第22条〜第28条 | 会計誤りの定義/重大性の判断/遡及修正の原則と限界/比較情報の再表示義務/注記内容の規定 |
会計法 | 会計法(Law on Accounting No. 88/2015/QH13) | 関連条文あり(直接引用はなし) | 企業の会計処理の正確性義務、帳簿の整合性義務などを規定 |
政令 | 政令126/2020/ND-CP | 第7条第4項 | 補足申告の可否は「税額に影響があるかどうか」で分かれる。税額に影響がなければ申告書提出不要、説明資料で十分 |
税務法 | 税務管理法(Law 38/2019/QH14) | 第47条第1項・第4項 | 補足申告ができるのは「誤りがあった税期間の申告期限から10年以内、かつ調査通知前」に限られる |
通達 | 通達200/2014/TT-BTC(企業会計制度) | 第125条 第1〜3項 | 財務諸表の誤りの修正方法を「提出前/提出後/過年度」で分類し、注記や修正対象の範囲を明示 |
通達 | 通達80/2021/TT-BTC | 附属書 II(Form 規定) | 補足申告書(Form 01/KHBS)および補足説明書(Form 01-1/KHBS)の記載様式を定めた資料 |
通達 | 通達156/2013/TT-BTC | 第10条第5項 | 財務諸表提出後に誤りが発覚した場合の補正・再提出手順の概要。補足申告との関係に言及 |
法律(改正) | Law 56/2024/QH15 | 第6条第6項 | 財務諸表の比較情報の正確性・再表示義務を明文化。過年度誤りへの対応ルールを明確化 |
オフィシャルレター(行政解釈) | バクザン省税務局 | 5509/CTBGI-TTHT(2022年9月14日) | 「税額に影響しない誤りであれば補足申告不要」と明記。修正財務諸表のみで可とする実務上の判断を示す |
結構からんでますね。
最後にひとこと
会計の誤りは「隠すもの」ではなく、「誠実に正すもの」。
法令は、正しく修正する企業の味方です。
もし「どのパターンかわからない…」という場合でも、遠慮なくマナボックスにご相談ください!