こんにちは!マナラボの菅野です。

今回は「台風で会社を休みにしたけど、給料はどうする?」というベトナム日系企業の皆さんにとっての定番お悩みにお答えします。

✔ 自宅待機のときって有給にできる?
✔ 給与は全額払うべき?最低限でOK?
✔ 振替勤務って合法?土曜出社でも割増いらない?

こんな疑問にお答えしつつ、ベトナム労働法の正確な条文を引用しながら、実務で何をすればいいかをわかりやすくご紹介します!

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「会社を休業させる」ってどういうこと?

ベトナムでは「業務停止」や「一時帰休」のことを**「ngừng việc(グン・ヴィエック)」=休業**と呼びます。労働法では、その原因に応じて支払い方が変わるのがポイントです。

これを定めているのが、ベトナム労働法第99条(休業時の賃金)です。

労働法第99条の条文構造(要点整理)

原因賃金の扱い法的根拠
使用者の過失(例:設備トラブル)労働契約どおりの全額支払い第99条第1項
労働者の過失(例:重大なミス)本人→支払いなし
他の労働者→最低賃金以上で合意支給
第99条第2項
使用者の過失によらない自然災害など最低賃金以上で合意支給(14営業日まで)
15日目以降は合意による
第99条第3項a,b

🔎 引用条文(抄訳)

Điều 99 Luật Lao động 2019:
“Trường hợp phải ngừng việc do… thiên tai, hỏa hoạn,… thì tiền lương ngừng việc do hai bên thỏa thuận nhưng không thấp hơn mức lương tối thiểu.”
(第99条3項:自然災害・火災などによる休業時の賃金は労使合意により決定するが、最低賃金を下回ってはならない。)


例えば大きな台風が来たら、会社はどう対応する?

それでは、台風が来て従業員を自宅待機させる場合、企業としてどんな選択肢があるのでしょうか?
労働法のルールを守りつつ、実務的にも使える4つの方法をご紹介します。

✅ 選択肢① 最低賃金での休業手当支給

ベトナム労働法上の最低ライン
「台風による出社停止」は不可抗力とみなされるため、第99条第3項aが適用され、地域別最低賃金を下回ってはならないと定められています。

例:ホーチミン(地域I)→ 4,960,000 VND/月(政令74/2022/NĐ-CP)

📝 実務上は、最低賃金の**100%(=その日の分を日割り)**で支給する企業もあれば、80%程度の基本給を支給する企業もあります(※合意によりOK)。

日系企業で最低賃金で支給することはないかもしれません。より手厚いフォローアップ体制があると言えます。

✅ 選択肢② 有給休暇の使用(要本人の同意)

年次有給休暇(第113条)を使って、その日の給与を満額支給する方法もあります。日本でよく推奨される方法かもしれませんね。
ただしここで注意!

❌ 会社が一方的に「今日は有給ね」と言ってしまうのはNG!

📖 労働法第113条第4項より:

“Thời gian nghỉ hằng năm do người sử dụng lao động quyết định sau khi tham khảo ý kiến người lao động…”
(有給の取得日は、労働者の意見を聞いたうえで使用者が決定する)

つまり、有給にする場合は、本人の同意や申請が必要です。

✅ 選択肢③ 振替勤務(他の日の出勤で補填)

こんなこともできるでしょう。
たとえばこういう運用:

対応
月曜(台風)自宅待機(給与なしまたは手当支給)
翌週土曜通常出勤(この日を平日扱いに)

このように**振替勤務(nghỉ bù)**をすれば、月曜の休業を土曜出勤で補えます。
ベトナムには明確な振替勤務の条文はないものの、政令145/2020/NĐ-CP 第55条では、「労働時間の分配は労使協議によって可能」とされています。

>>ベトナムで振替出勤日は残業代つくの?給料は100%?【8726/VPCP-KGVXと6150/TB-BLDTBXHの解説】

📝 就業規則で事前に「振替勤務あり」と記載しておくことがベストでしょう。

✅ 選択肢④ 在宅勤務に切り替える(可能な職種)

弊社マナボックスはこの選択肢です。

IT企業や事務系職種であれば、VPNなどを使って在宅勤務を指示すれば、通常勤務とみなせます。
この場合は100%の給与を支払う必要あり(当然ですね)。

最近では、日系企業でもテレワーク制度を導入するところが増えています。

振替勤務ってベトナムでも合法?

合法だと理解しています。

実際、旧正月や国の連休時には、ベトナム政府自体が公式に「出勤日の振替」を公表しているほど、振替勤務は社会的にも一般化しています。

📌 補足:振替勤務にするには…

  • ① 就業規則に明記
  • ② 事前に労働者へ通知
  • ③ 割増賃金が不要になるように平日扱いに調整

この3点を押さえておけば、振替勤務は「賃金コストの最適化」+「従業員保護」両方に効果的です!


日本との違いは?日越制度比較でチェック!

ベトナムと日本は異なります。

比較項目ベトナム日本
台風時の休業補償最低賃金以上(労働法99条3項)補償義務なし(労基法26条は不可抗力除外)
使用者都合の休業100%支給(第99条1項)平均賃金の60%以上(労基法26条)
有給の強制不可(第113条)原則不可(ただし計画的付与制度あり)
振替勤務合法、要規則記載(政令145/2020/NĐ-CP 第55条)合法、36協定などの条件付き
テレワーク制度導入次第普及中・労基法適用

ベトナムの方が「労働者保護のミニマム」が法律でしっかり決まっているのが特徴ですね。


実務でのヒントと注意点

  • 「台風時は最低賃金で補償」は法律で決まっている(第99条)
  • 有給への振替は“本人の同意”がないと違法(第113条)
  • 振替勤務は、就業規則&事前通知で割増不要にできる(政令145号)
  • 「80~100%」の基本給を支払う企業も多く、従業員満足にも効果的
  • 労働時間・保険料との関係も考えて、記録管理をしっかりと

まとめ:災害時こそ、会社の誠実さが見られている

台風は予測できません。でも会社の対応は準備できます。

法律上は「最低賃金以上でOK」とされていますが、
マナボックスが見てきた日系企業の多くはこう考えています。

「うちの社員、生活に困らないかな?」
「災害のときこそ、人を守る会社でいたい」

休業手当、有給、振替勤務、テレワーク。
何を選ぶかは会社の判断ですが、制度と誠意をもって従業員と向き合うことが、結果的に会社の信頼と安定につながります。