マナラボの菅野です。

今日は『ベトナムで労働契約が終了する6つのパターン』についてお伝えします。

この記事を読んで得する人
  • ベトナムの現地法人の社長をしている
  • 合弁会社で事業をしており、労務について合弁先に聞きたいことが聞けない

この記事を読んで頂ければ、労働法の悩ましい問題も解決できるはずですよ。なお、以下で述べる労働法の42条についての詳細な解説は以下でしております。

>>M-Lab_【ベトナム労働法】組織・技術の変更もしくは経済的理由により従業員に退職してもらう時の留意点を2つの視点から考える

【図解あり】ベトナムにおいて労働契約が終了する6つのパターン

ベトナム労働法の34条に労働契約が終了するケースについて定められています。

  1. 労働契約期間の満了・試用期間終了
  2. 両者合意による終了
  3. 労働者(従業員)の事由による終了
  4. 使用者側(会社)の事由による終了
  5. 企業の組織変更・事業変更に伴う終了
  6. その他の終了事由

労働法34条をまとめて表にすると以下のようになります。

グループ労働契約の終了原因

34条の項の番号

事前通知要否
1. 労働契約期間の満了・試用期間終了

労働契約期間が満了

労働許可書の効力期間が満了(外国人労働者)

試用期間終了(試用の内容の合意に達しない場合)

2. 合意による終了

両当事者が契約の終了に合意
3. 労働者の事由による終了

懲役刑・死刑の宣告や業務を行うことを禁じられた場合

✖️

国外退去となった外国人労働者

✖️

労働者の死亡・民事行為能力の喪失・失踪・死亡宣言

✖️

解雇の規律処分を受けた労働者

✖️

労働者が一方的に労働契約の解約を行った

4. 使用者の事由による終了

個人使用者の死亡・民事行為能力の喪失・失踪・死亡宣言

✖️

法人使用者の活動終了・法的代表者の不在通報

✖️

使用者が一方的に労働契約の解約を行った

5. 企業の組織変更・事業変更に伴う終了

構造・技術の変更・経済的理由、企業の消滅分割・存続分割・新設合併・吸収合併、売却・賃貸、形式転換、財産の所有権・使用権譲渡による退職

42条及び第43条の規定に従って労働者を退職させる場合

6. その他事由

労働契約に従った業務の一時的停止。

上記について実務上論点になりやすい点から詳しく解説します。

労働者の事由による終了

まず、労働者側に理由がある場合の労働契約終了のケースです。

  • 懲役刑・死刑の宣告や業務を行うことを禁じられた場合(④)
  • 国外退去となった外国人労働者(⑤)
  • 労働者の死亡・民事行為能力の喪失・失踪・死亡宣言(⑥)
  • 解雇の規律処分を受けた労働者(⑧)
  • 労働者が一方的に労働契約の解約を行った(⑨)

このうち、④、⑤、⑥については議論の余地がありません。当然ですよね。不可避です。これ以外について解説しましょう。

解雇、いわゆるクビ!⑧

解雇にあたるような従業員側がしてしまったら、クビにすることができます。その解雇事由は、労働法の第125条 解雇による規律処分形式の適用 に記載されています。

一言で言えば、「悪いことしたら当然クビにできます」ということです。当然の会社の権利です。125条の内容をまとめると以下のようになります。

ベトナムの海外子会社で発生の可能性があるとしたら窃盗や横領、企業秘密の漏洩などあたりがよくあります。125条を整理すると以下のようになります。

  1. 職場での犯罪行為

    • 職場での窃盗、横領、賭博、故意による傷害の惹起、麻薬使用(①)
  2. 企業秘密・知的財産侵害・損害行為・セクシャルハラスメント

    • 企業の営業機密・技術機密の漏洩、知的所有権の侵害、企業の財産・利益に重大な損害を与える行為、職場でのセクシャルハラスメント(②)
  3. 再犯行為

    • 昇給期間の延長または免職の規律処分を受けた労働者が、規律処分解消期間中に再犯行為を行う(③)
  4. 仕事放棄

    • 労働者が正当な理由なく、30日間に合計5日、または365日間に合計20日、仕事を放棄する(④)

労働者が一方的に労働契約の解約を行う

これは労働法の35条に定められています。大きくわけると以下のようになります。

  • 労働者がやめたいと思った場合(通知必要)
  • 会社側に理由があり、労働者やめたいと思った場合(通知必要なし)

会社側に問題がある場合にまで事前通知はいらないでしょ。というのは感覚的にも納得ですよね。

詳細は以下のとおり。

労働者がやめたいと思った場合の事前通知期間(労働契約タイプ別の通知期間)

  • a) 無期限労働契約:45日前通知(①)
  • b) 12~36ヶ月の有期限労働契約:30日前通知(②)
  • c) 12ヶ月未満の有期限労働契約:3営業日前通知(③)
  • d) 特殊な業種・分野・業務:政府の規定に従った事前通知期間(④)

労働者がやめたいと思う理由が会社側にあった場合の事前通知不要の場合

  • a) 合意に従った業務・勤務地・労働条件が保証されない(⑤)
  • b) 賃金が十分に支払われない、または支払い遅延がある(⑥)
  • c) 使用者による虐待・殴打・侮辱的言動・健康・人格・名誉に悪影響を与える行為・強制労働(⑦)
  • d) 職場でのセクシャルハラスメント(⑧)
  • e) 妊娠中の女性労働者が法定休業を取得すべき場合(⑨)
  • f) 定年退職年齢に達した場合(⑩)
  • g) 使用者が誠実な情報を提供せず、労働契約履行に影響を与える場合(⑪)

従業員からやめたいと思って転職するケースがベトナムではよく発生します。この場合、事前通知が必要なのですね。

>>事前通知しない退職した労働者に対して損害賠償を適用できるか?【ベトナム労働法】

会社側に問題があれば、従業員はすぐに退職することができます。

使用者(会社側)の事由による終了

続いて会社側の都合で会社を退職してほしい場合です。労働法によれば以下の事由です。

  • 個人使用者の死亡・民事行為能力の喪失・失踪・死亡宣言(⑦)
  • 法人使用者の活動終了・法的代表者の不在通報(⑦)
  • 使用者が一方的に労働契約の解約を行った(⑩)

このうち⑦については議論になることはありません。当然だからですね。問題は⑩の点です。これは使用者が,ベトナム労働法の第36条の規定に従った労働契約の解約をした場合です。そのため36条を深堀する必要がありますね。

この36条は、会社側が労働契約を解除(更新しない)できるケースについて定められています。こんな場合には雇用側の企業にも、労働者と契約しなくていいよね〜という場合です。

表でまとめると以下のようになります。上記で述べた「解雇」とは異なりますので要注意です。事前に通知が必要ですが、しょうもない場合には事前に通知は必要ありません。

カテゴリ

内容事前通知
労働契約解約の権利

労働者が業務を常時達成できない

必要

労働者が病気や事故で一定期間労働不能

必要

自然災害や火災などで労働場所を減らさざるを得ない

必要

労働者が一定期間職場に来ない

定年退職年齢に達した労働者

必要

労働者が正当な理由なく連続5日以上仕事をしない

労働者が誠実な情報を提供せず、採用に影響を与える

必要
事前通知期間

無期限労働契約

45日前通知

12~36ヶ月の有期限労働契約

30日前通知

12ヶ月未満の有期限労働契約

3営業日前通知
特殊な業種・分野・業務

政府の規定に従った事前通知期間

 

上記以外の理由での労働契約の終了

上記以外では以下のような理由で労働契約が終了します。

  • 労働契約期間の満了・試用期間終了
  • 両者合意による終了
  • 企業の組織変更・事業変更に伴う終了
  • その他の終了事由

上記を詳細に説明すると以下のようになります。

労働契約期間の満了・試用期間終了

  • 労働契約期間が満了(①)
  • 労働許可書の効力期間が満了(外国人労働者)(⑫)
  • 試用期間終了(試用の内容の合意に達しない場合)(⑬)

これは契約自体が完了した場合なので当然ですね。

 合意による終了

  • 両当事者が契約の終了に合意(③)

さらっと記載していますが、実務上は両者の合意までもっていくのが最善でしょう。

企業の組織変更・事業変更に伴う終了

  • 構造・技術の変更・経済的理由、企業の消滅分割・存続分割・新設合併・吸収合併、売却・賃貸、形式転換、財産の所有権・使用権譲渡による退職(⑪)

その他の終了事由

  • 労働契約に従った業務の一時的停止(②)

 

退職手当・失業手当(退職金)の論点

労働契約が終了した場合に、一定の場合に「退職手当」・「失業手当」が発生します。両者の違いは以下の通りです。

手当の内容

条件計算

「退職手当」

12か月以上常時働いていた1年間の勤務ごとに月給の半額分の退職手当を支払う

「失業手当」

12か月以上常時働いていた

その労働者に対して勤務1年ごとに1か月分の給料相当を支払う

その額は最低でも2か月分である必要がある

このように異同点があります。「失業手当」は「退職手当」の倍の金額となりますよね。

>>【ベトナム労働法】「退職金」についてこんな勘違いをしていませんか?【退職金が発生する4つのケース】

この点、労働契約が終了した理由により「退職手当」なのか?「失業手当」なのか?が異なってきます。これを表でまとめると以下の通り。

こうすると失業手当に該当する場合というのは限定的だというのがわかります。

34条の労働契約の終了事由と手当をマッピングさせると以下の通りです。

グループ終了原因項目事前通知要否手当
1. 労働契約期間の満了・試用期間終了

労働契約期間が満了

退職手当

労働許可書の効力期間が満了(外国人労働者)

試用期間終了(試用の内容の合意に達しない場合)

2. 合意による終了

両当事者が契約の終了に合意退職手当
3. 労働者の事由による終了

懲役刑・死刑の宣告や業務を行うことを禁じられた場合

✖️退職手当

国外退去となった外国人労働者

✖️

労働者の死亡・民事行為能力の喪失・失踪・死亡宣言

✖️退職手当

解雇の規律処分を受けた労働者

✖️

労働者が一方的に労働契約の解約を行った

退職手当
4. 使用者の事由による終了

個人使用者の死亡・民事行為能力の喪失・失踪・死亡宣言

✖️退職手当

法人使用者の活動終了・法的代表者の不在通報

✖️退職手当

使用者が一方的に労働契約の解約を行った

退職手当
5. 企業の組織変更・事業変更に伴う終了

構造・技術の変更・経済的理由、

企業の消滅分割・存続分割・新設合併・吸収合併、売却・賃貸、形式転換、財産の所有権・使用権譲渡による退職

42条及び第43条の規定に従って労働者を退職させる場合

失業手当

6. その他

業務の一時停止

労働契約に従った業務の一時的停止

退職手当

こうしてみると上記グループの5企業の組織変更・事業変更に伴う終了の場合には「失業手当」になりそうです。これは具体的に言うと労働法の42条・43条を理由に退職してもらう場合です。要するに会社都合で退職してもらう場合だと言えます。43条は合併等の組織再編に伴う労働契約の終了なのでわかりやすいです。しかし42条についてはやや論点があります。言葉が抽象的だからです。この点マナラボで実務的な意見を以下でまとめております。

>>M-Lab_【ベトナム労働法】組織・技術の変更もしくは経済的理由により従業員に退職してもらう時の留意点を2つの視点から考える

第42条 構造,技術の変更又は経済的理由がある場合の使用者の義務

1.以下の場合に構造,技術の変更と看做される:

  • a) 労働編成構造の変更,労働の再編成;
  • b) 使用者の生産,経営業種に付着する生産と経営の工程,技術,機械,設備の変更;
  • c) 生産品又は生産品の構造の変更。

2.以下の場合に経済的理由によると看做される:

  • a) 経済恐慌又は衰退
  • b) 経済の再編又は国際的約束の実施の場合の国家の政策,法令の実施

3.多数の労働者に影響が出る構造,技術の変更をする場合,使用者はこの法定44条の規定に従った労働者使用計画を立案,実施しなければならない;新たな業務がある場合,継続的に使用するために労働者を優先的に育成する。

4.経済的理由により多数の労働者が職を失う危険があり,退職しなければならない場合,使用者はこの法典第44条の規定に従った労働者使用計画を立案,実施しなければならない。

5.使用者が雇用解決をすることができず,労働者を退職させなければならない場合,この法典第47条の規定に従った失業手当を支払わなければならない。

6.この条の規定に従った労働者の退職は,労働者が構成員である労働者代表組織がある職場では職場の労働者代表組織と意見交換をした後のみにできるものであり,30日前に省級人民委員会及び労働者に通知する。

第43条 企業が消滅分割,存続分割,新設合併,吸収合併する場合;企業を売却,賃貸し,企業の形式を転換する場合;企業,協同組合の財産の所有権,使用権が譲渡される場合の使用者の義務

1.企業が消滅分割,存続分割,新設合併,吸収合併;企業を売却,賃貸し,企業の形式を転換;企業,協同組合の財産の所有権,使用権を譲渡して多くの労働者の雇用に影響する場合,使用者はこの法典第44条の規定に従った労働者使用計画を立案しなければならない。

2.現在の使用者と承継される労働者は採択された労働者使用計画を実施する責任を負う。

3.退職させられた労働者は,この法典第47条の規定に従って,失業手当を受給することができる。

本日のまとめ

本日は『ベトナムにおける労働契約の終了の6つのパターンとその実務上の留意点』というテーマでお伝えしました。

いろいろありますが退職(労働契約の終了)は法律的な話と感情的な話があって、どちらかと言えば感情的な話の方が重要です。人間だもの。

とにかく恨みを買わない。お互いがハッピーになれるような関係がベストですのでそれをお忘れなく!