マナラボの菅野です。
今日のテーマは『原価計算のDDのチェックリスト』というテーマでお伝えします。
なおそもそもDDについてわからないと言う人もいると思いますのでその方は以下をチェックしてください! なおマナボックスベトナムでは日本およびベトナムの公認会計士が財務DDを支援しています。
>>ベトナムにおける財務デューデリジェンス(DD)の全体像を解説
ベトナム現地法人の買収や投資の際に必要な「原価計算」に関するDDです。これは、企業の財務健全性を確認するための第一歩であり、隠れたリスクを洗い出すために不可欠なプロセスです。特にベトナムでは、企業文化や慣習の違い、コンプライアンスの意識の違いから、日本企業が想定していないリスクが存在することがあります。以下では、ベトナム現地法人の原価計算に関する具体的なチェックリストを紹介します。
ベトナムの原価計算に関する勘定科目コードは以下の通りです。勘定科目のルールをきちんと把握しておくといいでしょう。
>>原価計算の流れをベトナムの勘定科目を使って解説!製造原価明細書を図解でスッキリ理解する方法
原価計算のDDのチェックリスト
チェックリストのサンプルは以下の通りです。あくまでサンプルですので実際のDDにはこれをもとに戦略を強弱つけてたてることが大事です。ある程度網羅的だとは思いますが、以下が完璧なリストではありませんのでそのあたりはご留意くださいね。
グループ | チェック項目 | チェック |
① 原価計算制度の理解グループ | 1-1, 買収対象会社が採用している原価計算制度は何か?(標準原価計算 or 実際原価計算など) | □ |
1-2,買収対象会社と自社(買手)の原価計算制度の違いは何か?(計算方法・適用基準など) | □ | |
② 費用の分類と集計方法の理解グループ | 2-1,製品ごとの原価と販売費・一般管理費の区分は適切か? | □ |
2-2,製造原価(直接原材料費・直接労務費・製造間接費)の集計方法は明確か? | □ | |
③ 標準原価と原価差異の管理グループ | 3-1,仕掛品の進捗率の計算方法は適切か?(誤差がないか) | □ |
3-2,標準原価の設定基準や改定頻度は適切か? | □ | |
3-3,原価差異(標準原価と実際原価の差異)の分析が行われているか?多額の差異が発生する場合、その要因は明確か? | □ |
それぞれ解説していきますね。
#1 原価計算制度の理解グループ
1-1買収対象会社が採用している原価計算制度は何か?(標準原価計算 or 実際原価計算など)
まず、買収対象会社が 標準原価計算 を採用しているのか、それとも 実際原価計算 を採用しているのかを確認することが最も基本的なステップです。
標準原価計算では、あらかじめ設定された「標準原価」を基準に実績との差異を分析する管理手法を用います。一方、実際原価計算では、発生したコストをリアルタイムで原価計算に反映します。
標準原価を設定している時に重要なのは、どの程度厳しい原価を設定しているかという観点です。後から述べる原価差異と関連してくるからです。
1-2,買収対象会社と自社(買手)の原価計算制度の違いは何か?(計算方法・適用基準など)
ここもかなり重要でしょう!買収後の経営統合(PMI)の観点からも、買収対象会社の原価計算制度と、自社の会計方針との 整合性を確保することが重要 です。統合後にシステムや経理プロセスをどのように調整するかを事前に検討しておく必要があります。
#2,費用の分類と集計方法の理解グループ
2-1,製品ごとの原価と販売費(641)・一般管理費(642)の区分は適切か?
以下の観点でチェックすることをが考えられます。
- 販売費・一般管理費と製造原価の区分が適切か?
- 間接費(共通コスト)の配賦基準が合理的か?
解説:
一般的に、販売費や一般管理費(販管費)は製造原価とは異なり、売上に直接関与しない管理部門のコストが含まれます。しかし、ベトナムでは販管費と製造原価の区分が曖昧になっているケースが多く、製造原価に本来販管費であるコストが含まれるリスクがあるため、正確に区分しているか?を確認する必要があります。以下の記事で分類について解説していますので参考にしてください。
ベトナム【勘定科目】を制する者は、経営も制す。「販売及び一般管理費」と「製造間接費」を正しく理解するための3つのステップで解説
2-2,製造原価(原材料費・直接労務費・製造間接費)の集計方法は明確か?
- 原材料費・直接労務費・製造間接費の集計方法が適切か?
- 直接費と間接費の分類が適切か?
ベトナムでの製造原価は 原材料費・労務費・製造間接費の3つに大別されます。
- 621 直接材料費
- 622 直接労務費
- 627 製造間接費
ここについての分類が正確にされているか?をチェックする必要があるでしょう。以下の記事にて日本の一般的な分類と比較をしていますので参考にしてください。
#3 標準原価と原価差異の管理グループ
3-1,仕掛品の進捗率の計算方法は適切か?(誤差がないか)
まずは加工費(労務費や経費)が仕掛品の集計範囲に含まれていることを確認する必要があります。また、製品の原価(進捗率100%)にそれぞれの仕掛品の進捗率を乗じて仕掛品の原価を計算している場合には、質問等によって、進捗率の見積方法を確認する必要があります。
3-2,標準原価の設定基準や改定頻度は適切か?
もし買収検討会社が標準原価を採用している場合、標準原価の設定方法を理解する必要があるでしょう。
標準原価は、最低でも1年に1回 改定されるべきだと考えられますか、適切な管理がなされていない場合、市場価格の変動が反映されず、実態と乖離した標準原価が用いられるリスクがあることから、改定の頻度や基準を確認する必要があります。
例えば、ベトナムでは為替変動が大きく、原材料コストが急激に変動することがあるため、標準原価の設定を適宜見直すことが重要でしょう。
3-3,原価差異(標準原価と実際原価の差異)の分析が行われているか?多額の差異が発生する場合、その要因は明確か?
買収対象の会社が標準原価計算を採用している場合、あらかじめ設定した「標準原価」と、実際にかかった「実際原価」の違い(=原価差異)を分析しているかを確認します。
なぜ重要なのか?
原価差異が大きいと、計画通りにコスト管理ができていない可能性があります。特に「不利差異(コストが予定より高くなっている)」が大きい場合、次のようなトラブルが発生しているかもしれません。
- 材料費の高騰:仕入れ価格が想定より上がっているかも?
- 作業効率の低下:生産ラインでのトラブルや、作業の遅れが発生
- 無駄なコストの発生:不良品が多く発生し、材料のロスが増えている
これらの原因を調べることで、企業のコスト管理が適切かどうかを判断できます。買収後のリスクを避けるためにも、原価差異の理由をしっかり確認することが重要です。
原価計算DDのまとめ
原価計算のデューデリジェンスでは、買収対象会社のコスト管理が適切かを評価し、買収後のリスクを最小限に抑えることが目的です。
まず、会社が採用している原価計算制度(標準原価計算か実際原価計算か)を確認し、計算方法や管理の精度を把握します。特に、製造原価の分類(原材料費・直接労務費・製造間接費)が適切か、直接費と間接費の振り分けに問題がないかを検証することが重要です。
また、原価差異の分析も必須です。標準原価と実際原価の差異が大きい場合、材料費の高騰、作業効率の低下、不良品の増加など、コスト管理上の問題が潜んでいる可能性があります。さらに、仕掛品の進捗率の計算方法や、自社の原価計算制度との違いも確認し、統合後の影響を予測します。
ベトナム企業特有の課題として、労務費の分類ミスや原価配賦の不適切さが挙げられるため、慎重な調査が求められます。原価管理の不備は利益率の低下につながるため、詳細な分析を行うことが不可欠です。