こんにちは!マナラボの菅野です。
今日は、ベトナムでM&Aを検討している皆さんに、**“法務デューデリジェンスで絶対に見逃したくない”**ポイントを、実体験ベースでご紹介します。
テーマはズバリ、
👉 「簿外債務(オフバランス負債)」の徹底チェック!
買収後に、「え…そんなの聞いてなかった…」となりやすい、帳簿に現れない負債の数々。
法務DDの中で、見落としがちな“爆弾”を抱えたまま契約してしまうと、あとでとんでもない金額がのしかかってきます…。
この記事のもくじ
そもそも「簿外債務」ってなに?
「負債」はふつう、貸借対照表に載っているもの…と思いがちですが、
実際には、会計上見えてこない「将来発生する可能性のある負債」がたくさんあります。
特に法務領域では、
- 従業員との未解決の問題
- 法令未遵守による罰金
- 過去の契約トラブル
- 曖昧な知的財産の使用権
など、“帳簿外”に隠れているリスクが多いんです。
実際によくある「見逃し簿外債務」7選(法務DD編)
以下は、私たちが実務でよくチェックしているポイントです。網羅的ではないですが…。
✔️表にしておくので、自社・対象会社のチェックにもぜひどうぞ!
項目 | 内容 | リスク |
① 社会保険未加入 ➝ 退職手当債務 | 社会保険・失業保険に加入していなかった従業員に対して、退職時に「勤続年数×1/2月給」の退職手当を支払う義務がある(労働法第46条)。過去の未加入期間が長いと、将来の大きな債務になる。 | 💣高 |
② コンプライアンス報告の未提出 | 労働局・商工局・環境局などへの年次・半期報告(例:環境影響評価レポート、外国人使用報告、労働者名簿報告)を怠っていた場合、過去に行政処分が発生したり、将来罰金の対象となる。 | ⚠️中〜高 |
③ 就業規則の登録漏れ | 従業員10人以上の企業で就業規則を作成・登録していない場合、懲戒処分や解雇の効力が無効とされるリスクあり。また、労働局からの指導・罰金の対象にも。 | ⚠️中 |
④ 労働組合費の未納 | 組合員がいるにもかかわらず、組合費(給与総額の2%)を納めていない場合、追徴や交渉トラブルが起こりうる。特に製造業でありがちな簿外リスク。 | ⚠️中 |
⑤ 隠れ残業・未払い賞与 | 勤怠管理が不十分で、残業代を適正に支払っていないケース。さらに慣例的な年末賞与等が就業規則に明記されていないまま未払いになると、従業員から一括請求される可能性あり。 | 💣高 |
⑥ 許可・ライセンスの不備 | 実態として行っている事業に対し、必要な営業ライセンス・環境許可等が取得されていない、あるいは期限切れで運営している場合、行政処分・罰金リスク。 | 💣高 |
⑦ 知財・契約関係の不備 | 商標・ソフトウェア・取引契約等について正式な登録や文書が存在しない場合、取引先や第三者との係争リスクや損害賠償リスクに直結する。 | 💣高 |
それぞれざっくり概要も解説しますね。
① 社会保険に未加入 → 退職金が爆弾に!
社会保険(特に失業保険)に未加入だった従業員には、
**「勤続年数×月給の1/2」**の退職手当を支払う義務があります(労働法第46条)。
これ、ほとんどのローカル企業が引当してません。
買収後に退職者がドッと出て、
「一人あたり10万円 × 30人分」で300万円の負債が急浮上…なんてザラにあります。
>>【ベトナム労働法】「退職金」についてこんな勘違いをしていませんか?【退職金が発生する4つのケース】
② コンプライアンスレポートの未提出 → 罰金まみれ
- 労働局への労働者名簿報告
- 環境局への年次モニタリング報告
- 商工局への外国人使用報告
こうした定期提出義務のある報告書、
ちゃんと出してますか?
意外と見落とされてて、
「罰金2,000万VND(約12万円)」レベルの事案がゴロゴロあります。
>>【これは便利!】2025年度ベトナムビジネスカレンダー 会計・税務、法務報告のデッドラインが一目でわかる!
>>M-Lab_【ずるい!?】ベトナムでビジネスする日経企業が気にすべきコンプライアンスガイド
③ 就業規則、登録してない…!
従業員が10人以上いるのに、就業規則を作っていない・登録していない会社も多いです。
これ、懲戒処分が無効になったり、労働争議で会社が不利になったりします。
労働局に出した形跡がない場合は、
「登録済みか?」の確認、必須です!
>>【ベトナム労働法】「新労働法」と「旧労働法」就業規則への影響を把握しよう!
④ 労働組合費、払ってない?
従業員が結成した組合があるのに、
組合費(給与総額の2%)を納めていないケースもあります。
これ、労働局の指導対象になりますし、
買収後に「いきなり請求される」ことも…
組合に関する書面、まず探しましょう。
>>ベトナムの労働組合の「組合費」と「組合貢献費」について徹底解説!
⑤ 隠れ残業 × 慣例賞与
「タイムカードないけど…まあ大丈夫っしょ」
↑ ダメです!
勤怠が不明確だと、過去の残業代を従業員が“まとめて請求”してくることがあります。さらに、「毎年年末に1か月分賞与出してたけど、今年は出しません」なんて言うと…
「過去の慣例だ!」と訴えられることも。なくはありません。
⑥ 営業許可・ライセンスの不備
製造、物流、不動産、IT…
どんな業種でも、ライセンスは命です。
- 実際に行ってる事業にライセンスがない
- 環境許可が期限切れ
なんて状態だと、買収後に営業停止 or 高額罰金なんてことに…。後は損金不算入みたいなことですね。
>>M-LAB_明確なベトナムのライセンスがない場合の考え方と実務的な対応【図解と2軸マップで解説】
⑦ 知財と契約がゆるいかも!
- 商標、登録してない
- ソフトウェアライセンス、口頭契約のみ
- 顧客契約書、エクセルとメールだけ
よくあります。でも、それだと…
商標差止請求 → 事業停止
契約無効主張 → 売上ゼロ
になりかねません!
✋ 最後に:DDのプロが口を揃えて言うこと
「リスクは“見えてるもの”より、“隠れてるもの”のほうが怖い」
これは本当にその通りです。
だからこそ、法務DDは「書類を見るだけ」で終わらせちゃダメ。
- 担当者へのしっかりとしたヒアリング
- 過去の社内メールや慣行の確認
- 表明保証・補償条項でのカバー
を組み合わせて、しっかりリスクヘッジしましょう!