こんにちは、マナボックスの菅野です。

本日は、ベトナムにおける労働契約書の構成について解説していきます。

この記事を読んで頂くことによって、日本人として、ベトナム労働契約書の内容を理解することが出来ます。その結果、実務に活かすことが可能となります。

この記事はこんな人のために書いています。
  • ベトナムに現地法人を設立し、労働契約書の作成を考慮している人
  • ベトナムに進出予定の企業の担当者の方
  • 労働契約書の内容が気になる方

本日の記事を読んで頂ければ、ベトナムにおける労働契約書の悩みが消えるはずですよ。2020年より、ベトナム労働法2019(法律番号 45/2019/QH14)が適用されていますが、基本的な構成は変更していません。

弊社お客様がログインできるページではさまざまな「雛形」がダウンロード可能です。

>>M-LAB_【楽々解決】ベトナム労働契約書の雛形集【解説付き】

>>労働契約書の雛形付き

ベトナムにおける労働契約の種類

ベトナムでの労働契約の種類は以下の通りです。3つあります。

ベトナム労働法(2012年)第22条に定められています。

a) 無期限労働契約

b) 有期限労働契約(満 12 ヵ月から 36 ヵ月までの期間と確定した契約)

c) 季節的な業務、又は特定業務を履行するため 12 ヶ月未満の有期限労働契約(季節労働者)

原則は書面です。言語は、ベトナム語も必要です。

また、有期限労務契約の更新は、一回までであり、その後は無期限となります。

ベトナム労働契約書の絶対的記載事項とは?【全体像】

労働契約書と労働法の関係

ベトナム労働契約書には、必須記載事項があります。これは、第23条 労働契約の内容として具体的に列挙されています。労働契約書と関連させたほうがより役に立つと思います。以下の表を見てください。

労働契約書(このパターンがほとんど)

労働法第23条(10個)
前文

①a)雇用者(企業)もしくは代表者の氏名と住所

②b)被雇用者の氏名、生年月日、性別、住所、身分証明書番号

【第一条】労働契約の業務及び期間

③c)職業(職務内容)と就業場所

④d)労働契約の期限

【第二条】勤務条件

⑦g)勤務時間、休憩時間
【第三条】労働者の義務及び権利

⑤đ)給与、給与の支払い形式と支払い期限、諸手当など

⑥e)昇給制度

⑨i)社会保険と医療保険

⑩k)職業訓練、職業技能水準の向上

【第四条】雇用者の義務及び権利

⑧h)被雇用者のための労働保護設備の供給

【第五条】実施の条項

後文

定められた文言あり(形式的文言)

図解すると以下のようになります。

労働法の新旧比較 2012と2019

以下は、旧労働法と新労働法の比較ですが、同様だと言えます。

2012

2019

第23 条 労働契約の内容 1. 労働契約は、次の事項を主な内容としなければならない。

  • a) 雇用者、又は法的代表者の氏名と住所
  • b) 被雇用者の氏名、生年月日、性別、住所、身分証明書番号または他の法的書類
  • c) 職業と職場
  • d) 労働契約の期限
  • đ) 給与、給与支払いの形式と期限、手当て、その他の追加項目
  • e) 昇給制度
  • g) 勤務時間、休憩時間
  • h) 被雇用者のための労働保護設備の供給
  • i) 社会保険と医療保険
  • k) 職業訓練、職業技能水準の向上

第21 条 労働契約の内容 1.労働契約は,以下の主要な内容を有さなければならない:

  • a) 使用者の名称,住所及び使用者側で労働契約を締結した者の氏名,職 名;
  • b) 労働者側で労働契約を締結した者の氏名,生年月日,性別,居住地,市民カード,人民証明書又はパスポートの番号
  • c) 業務及び職場の場所;
  • d) 労働契約期間;
  • đ) 業務又は職名に従った賃金額,賃金の支払方式,賃金支払時期,手当及 びその他の補充項目;
  • e) 昇級,昇給制度;
  • g) 労働時間,休憩時間;
  • h) 労働者に対する労働保護設備;
  • i) 社会保険,医療保険及び失業保険;
  • k) 職業能力,水準の訓練,増強,向上。

それでは、それぞれ解説していきますね。労働契約書の構成で解説していきます。

ベトナム労働契約書の前文

まずは、雇用者と被雇用者です。雇う側と雇われる側。会社と従業員。社長とスタッフ。みたいな感じです。

ベトナム労働法以下の2つの構成要素が必要です。

  • 雇用者
  • 被雇用者

①雇用者(企業)もしくは代表者の氏名と住所

労働者を雇用している企業の基本情報を記載します。

企業登録証明書(ERC)、投資証明書などの法的な書類に記載されている企業名や組織名及び所在地を記載することになります。あなたの会社の情報ですね。

参考記事:>>どこよりも詳しく、ベトナムERC(企業登録証明書)を徹底解説してみた! 

>>ベトナムの投資登録証明書(IRC)をどこよりも詳しく徹底解説! 【保存版】

留意点

この点、法的代表者(社長というイメージ)と労働契約する場合には留意点があります。社長が社長を雇用するみたいになりちょっと変だからです。

出資者(日本の親会社)や会長(法的代表者と異なる場合)にする場合もあります。有効な労働契約書でないよって指摘されて、損金不算入って指摘される可能性があるのかなと思いました。ありそうですよね。ベトナム。

②被雇用者の氏名、生年月日、性別、住所、身分証明書番号

被雇用者の個人情報ですね。

身分証明書については、2つに分類するとわかりやすいです。ベトナム人と外国人(日本人)です。

ベトナム人の場合:身分証明書番号または、人民証番号(CMND)旅券番号を記載。

外国人(日本人)の場合:労働許可証(ワークパーミット)の労働許可番号やパスポート番号・交付日・交付場所の記載が必要。

【第一条】業務の内容と労働契約期間

労働契約書の第一条には、以下の項目を記載します。

  • 労働契約の期間
  • 被雇用者の業務の内容 

それぞれ解説していきます。

③【第一条】職業(職務内容)及び労働期間等

いわゆるジョブディスクリプションですね。あなたが、採用した従業員に、なにをしてほしいか?というのを労働契約書上でも明確にする必要があります。

これを明確にしないと後々揉めてしまうこともあります。

例えば、経理担当者であれば、記帳業務、財務分析業務、書類の整理保管、申告書の作成などですね。

就業場所は雇用者と被雇用者が合意した業務を行う勤務の範囲と勤務地となります。基本的には会社や工場の場所となります。

但し、勤務地が複数になる場合は主な勤務地のみの記載で問題ないようです。

④【第一条】労働契約の期限

これは最初に述べた労働契約の種類によって異なります。

無期限労働契約の場合は、労働契約開始時期です。例えば、2019年4月1日からであればその日付を記入します。

有期限労働契約の場合は、期間や、労働契約開始及び終了時期を記載することが一般的です。

例えば、2019年4月1日から2020年3月31日など。

新しく雇用する人などは、有期限労働契約になることが多いと思います。

こちらはベトナムの個人所得税にも影響するので、留意が必要ですね。

【第二条】勤務条件

ここには、以下の項目を記載します。

  • 勤務時間の条件
補足での説明

労働契約書の各項目の補足事項についてのガイドラインがあります。「政令労働法の一部内容について詳細と施行ガイドラインを規定する(05/2015/ND-CP)の2章 労働契約 第1項 労働契約の締結 4 条 労働契約内容」で11項目が定められています。

>>政令労働法の一部内容について詳細と施行ガイドライン

⑦勤務時間、休憩時間

勤務時間と休憩時間の詳細を記載します。

1日当たりの労働時間(勤務開始時間含む)及び週当たりの労働時間や記載します。

例えば、1日8時間(8:00~17:00)、週48時間、昼休 12:00 – 13:00などと記載します。

また、休日の情報も記載します。週休、年休、祝日、テト休暇などの休暇情報も記載します。上限時間に留意する必要がありますね。

⭐️【第三条】労働者の義務および権利

ここには、以下の項目を記載します。一番大事なところだと思います。駐在員も含めた前提で記載しますね。

【権利】

  • 給与及び賞与
  • 昇給に関する文言
  • 手当
  • 会社が負担する経費(一時帰国の飛行機代など)
  • 教育制度(ベトナム従業員の場合が多い)
  • 社会保険に関する事項
  • 個人所得税を負担する旨

【義務】

  • 労働契約に規定した義務の遂行
  • 会社命令に従う(就業規則を遵守)→就業規則が大事
  • 違反した場合の弁済(就業規則を遵守)→就業規則が大事

労働法に照らし合わせると以下の項目が該当します。冒頭にリストアップした労働法の23条の5,6,9,10が該当します。義務については、23条では、明確でありませんが、労働契約書に記載しておかない問題が生じてしまいます。ふざけたスタッフ、態度が悪くなったスタッフに対してアクションを起こすに当たってきちんと文言を定めておくことは大事です。

【第二条】給与、給与の支払い形式と支払い期限、諸手当など

あなたの従業員が一番気にするところです。

基本給与情報は、文字通り、基本給与です。Basic salaryですね。

例えば、1,000USDと決定したのであれば、その金額を記載します。

支払い方式は、一般的には銀行振込になります。

参考記事:>>ベトナムで会社設立支援してきてわかった!ベトナムで銀行口座の選ぶ時の6つのポイント

諸手当ですが、こちらは会社の方針によっていろいろ異なります。

・スキル手当(例:日本語手当、資格手当)

・交通費手当

などが一般的です。

また、一時帰国などの航空代金を会社が負担する場合にはこちらに記載しないといけません。

マナボックスベトナムでは、10年以上、300社以上支援してきたベトナム法律専門家とベトナム歴9年の日本人専門家が、ベトナム労務関係を実務の問題も踏まえて支援しております。 ベトナム労務関係で困っている方は、是非下記をクリックください!

>>ベトナム労務支援について

⑥昇給制度

双方で合意した昇格・昇級の条件および昇給後の条件を記載します。

ここは、実際は難しいですよね。なので、「企業の状況による」として抽象的な表現にすることが多いかもしれません。

⑨社会保険と医療保険

ベトナムの社会保険(年金、失業保険、医療保険)についての従業員が負担する分についての金額について記載します。社会保険法に基づきます。

ベトナムの社会保険の総額の%は、32%程度であり、そのうち10.5%が従業員負担となっています。高いですね~!

参考記事:>>ベトナムの社会保険が、、、、、日本人にも?? 

⑩職業訓練、職業技能水準の向上

これは、スキルアップのための研修制度についての記載です。ベトナムは教育熱心ですからね。人材育成という観点からもこの点が必須なのかと推測します。

駐在員の場合の労働契約書のポイント

一番のポイントは、日本人駐在者の給与や手当、費用負担の部分です。なぜならば、法人税法上で、損金不算入の論点が生まれるからです。もし、損金不算入となるとキャッシュアウトに繋がるから痛いですよね。

>>“損金不算入”ってなんだ?わかりやすく解説 ベトナムにおける典型例とは?

【第四条】雇用者の義務および権利

次に雇用している側の話ですね。つまり、会社です。あなたが社長であれば、あなたの権利と義務です。こちら義務から始まります。基本的には従業員目線なんですよね。

【義務】

  • 仕事の保証、労働契約に記載した事項をきちんと実行(条件や給与など)

【権利】

  • 会社の目的を果たすために従業員を指導したり管理したりする権利(配置転換、転勤など)
  • 一定の条件を満たした場合に解雇等をする権利

ベトナムの労働法に照らし合わせると以下の条文が該当します。

⑧被雇用者のための労働保護設備の供給

従業員様が業務を行うために最低限必要なものです。

例えば、ワーカーさんであれば、ヘルメット、マスク、軍手、作業服などです。安全性に配慮したものだと思います。

まあ、実際は、そこまで細かく記載しないで、必要なものは支給している会社が多いです。

【第五条】実施の条項

こちらお決まりの文言です。

  • 労働契約書に記載されていない労働に関する問題は、労働法や就業規則に準拠する
  • 労働契約書は2部作成し、1部は労働者でもう一部は会社。署名が必要。

またその他として、条件を追加しているケースもあります。

本日のまとめ

絵的に表現すると以下の感じかなと思います。ストーリーと関連させると理解しやすいかなと思います。

本日は、ベトナムの労働契約書の必須記載項目について解説させて頂きました。

労働契約書は、すごく大事ですよね。私も、実感しております。記載してあることは強い!

もちろん、これ以外にも、雇用者及び被雇用者の合意があれば、適宜追加させることはできます。例えば、社内の情報についての取り扱いについて追加してもいいですよね。キックバックを防止するような条項だって盛り込めます。

あなたの会社が、ベトナムの労働契約書を理解することによって、ビジネスを成功させることを祈っていますね!

マナボックスベトナムでは、10年以上、300社以上支援してきたベトナム法律専門家とベトナム歴9年の日本人専門家が、ベトナム労働契約書の内容を不正という観点からレビューします。

ベトナム労務支援について