こんにちは、マナボックスの菅野(すげの)です。
ついに、ベトナムも……。先日のニュースです。
ベトナムでも封鎖措置「4月15日まで必需でない業種の営業停止」
ベトナムは、28日から新型コロナウイルス拡大防止のための封鎖措置に着手した。
CNN放送によると、グエン・スアン・フック・ベトナム首相が署名した同ウイルスへの対応の一環として、ベトナムは同日から4月15日まで、必需でないサービス業の営業を停止する。
これにより、ベトナム全域でマッサージ店、観光地、映画館などが営業を停止することになる。ホーチミン、ハノイ、カントー、ダナンなどの主要都市は、食品や薬局、医療サービス提供業を除くすべての施設営業を停止しなければならない。
ベトナム当局はまた、オフィス、学校、病院の外で10人以上集まることを禁止した。20人以上が集まる宗教活動も制限される。
言い換えると、経済活動が停滞するってことです。経済活動よりも、健康を重視したと言えます。
この記事のもくじ
もし、新型コロナウイルスで業績が悪化した場合は?
リーさんは、10年以上の実務経験があり、日系企業を中心に300社以上を支援してきている日本語がネイティブの法律のプロフェッショナルです。
どうぞ、よろしくお願い致します。
経済への影響についてあまりニュースになってないような気がします。しかし、私は経営者という側面もあるのでどうしても”資金繰り”が気になります。
例えば、レストランなどの飲食店が、1ヶ月活動できなかった場合の資金とかは心配です。
今後、飲食店だけでなく製造業などにも、自粛要請が発動されたら、そのインパクトは計り知れないです。
その場合、雇用者は、従業員を解雇ができるのか?契約解除ができるのか?などの論点が出てくると思います。
この点について知りたいです。
どうぞよろしくお願いいたします。
健康への影響も心配ですが、やはり経済活動の影響にも留意する必要があります。
28日により、ベトナムが、閉鎖を要求したことにより、ますます心配になっていると思います。
仰る通り、業績の悪化、資金繰りが心配です。
はい、ベトナム労働法という観点から見て行きたいと思います。この点ですが、
第1064/LDTBXH-QHLDTL号というオフィシャルレターも発行されています。
第1064/LDTBXH-QHLDTL号のまとめ(間接的な影響)
サプライチェーンなどの影響により、休業などの影響がある場合
①労働契約「解除」できるか?
②「解雇」することができるか?
③その他(他の業務への変換が可能かなど)
①コロナが原因で業績が悪化した場合に38条1項のcにあたるか?「解除」
結論:38条に該当し、雇用主が労働契約を一方的に解除することができる。また、保険に加入しない期間に対して、雇用主がその労働者に退職手当を支払わなければならない。
該当するのかの検討
早速、教えてください。
繰り返しになりますが、ベトナム政府の自粛要請により、企業の業績が著しく悪化した場合を想定しています。
はい。この場合、ベトナム労働法の38条を検討します。
以下を参照ください。
第38条 雇用者が労働契約を一方的に解除する権利
1.下記の場合、雇用者は一方的に労働契約を解除する権利を有する。
a) 被雇用者が、頻繁に労働契約に定めた業務を遂行しない場合
b) 被雇用者が、病気、事故で連続して 12 ヶ月(無期限労働契約の場合)、6 ヶ月(有期限労働契約の場合)、契約期間の 1/2以上(12 ヶ月未満の季節的業務、又は特定業務の労働契約の場合)にわたり治療を受けたが、労働能力を回復できない。被雇用者の労働能力が回復した際は、雇用者は労働契約の継続を検討する。
c) 天災、火災又は政府が規定するその他の不可抗力の理由により、雇用者が全ての克服措置を実行したが、やむを得ず生産規模の縮小及び人員削減を行う。d) 被雇用者が、本法第33条で規定する期限後に欠勤する
38条は、使用者(社長)による労働契約を一方的に解約できる権利が記載されていますね。
この38条の”c) 天災、火災又は政府が規定するその他の不可抗力の理由により、雇用者が全ての克服措置を実行したが、やむを得ず生産規模の縮小及び人員削減を行う。”にあたるのか?の検討の余地があります。
Decision173 / QD-TTgや Decision 219 / QD-BYT 号の内容を考えると、
「不可抗力」に該当すると考えられます。
つまり、 天災地変など人力ではどうすることもできないこと。 に該当する可能性は高いかなと。
また、法律に従って事前に通知する必要があります。
新型コロナウイルスによって政府から自粛要請がでて、業績が著しく悪化した場合、不可抗力にあたる可能性はある。
この時、全ての克服措置を実行したが、やむを得ず生産規模の縮小及び人員削減を行う。場合には、38条により労働契約解除の検討ができる。
事前に通知する必要がある。
- 無期限労働契約の場合は少なくとも45日前
- 有期限労働契約の場合は少なくとも30日前
- 12ヶ月未満の季節的業務、又は特定業務の労働契約の場合は少なくとも3営業日前まで
この場合の退職手当について(48条)
38条により、労働契約について解除した場合、退職手当を支払う必要があります。
退職手当を受ける対象は勤続12ヶ月以上勤務した労働者。
退職手当の計算:勤続 1 年につき半カ月分の賃金に相当する退職手当を支給(48条)
②コロナが原因で業績が悪化した場合に「解雇」できるか?
結論:雇用主は解雇することが可能。また、保険に加入しない場合は、雇用主がその労働者に失業手当を支払う必要がある。44条及び49条
解雇できるのか?44条
では、解雇はどうでしょうか?
オフィシャルレターによれば、解雇(44条)も可能なようです。
雇用主は解雇することができます。そして、保険に加入しない期間に対しては、雇用主はその労働者に対して失業手当を支払う必要があります。
この場合の失業手当について(49条)
失業手当を受ける対象は勤続12ヶ月以上勤務した労働者となります。
失業手当の計算:勤続 1 年につき 1 カ月分の賃金に相当する失業手当を支給しなければなりません。但し最低でも 2 カ月以上の必要があります。
③その他について
結論:31条 異なる業務へ異動
その他について教えてください。
他の業務に異動できる場合などが想定されています。この場合、31条に準拠して、雇用主は年間60日間まで一時的に本来の業務と異なる業務に、被雇用者を異動させることが可能です。
留意点は以下の通りです。
- 60営業日を超えてはいけない。(同意があれば、超えることが出来る。
- 30営業日は、従来の給与水準が維持される
- 新業務の給与は、従来の給与の85%が維持される。(最低賃金を下回ってはならない。)
第31条 労働契約での業務と異なる業務への被雇用者の異動
1. 天災、火事、疫病、労働災害の回避・被害克服の措置適用、職業病、
水・電源障害の突発的な困難の発生、或いは生産、経営上の必要がある際、雇用者は一時的に本来の業務と異なる業務に、被雇用者を異動させる権限を持つが、雇用者の同意を受けた場合を除き、1年につき合計で60営業日を越えてはならない。
2. 一時的に本来の業務と異なる業務に被雇用者を異動させる際、雇用者は被雇用者に対し、少なくとも 3 営業日前に通告し、一時的な業務の期間を明確に通知し、被雇用者の健康や性別に合致するように、業務を配置しなければならない。
3. 本条第 1 項の規定に従って異動される被雇用者は、新業務に応じた
給与を受ける;、新業務の給与が従来の給与より低かった場合、30営業日の間は従来の給与水準を維持される。新業務に対する給与は、少なくとも従来の給与の 85%を維持する必要があるが、国の規定による最低賃金を下回ってはならない。
失業保険等の論点について
ありがとうございます。
その他補足事項はありますか?失業保険など。
はい。
いくつかあります。仮に労働契約を解除した場合の、その後の保障についても理解しておかないといけません。
ベトナム人の従業員が社会保険に加入していれば、労働契約解除後も失業手当をもらうことができます。
ただし、失業保険を受給する要件を満たす必要があります。
失業保険を受給する要件(雇用法第49条各項)
- 労働契約が終了していること(労働者が一方的に違法に労働契約を終了した場合、退職金や労働能力喪失手当を受給している場合を除く)
- 12カ月以上の期間にわたり保険料を納付していること(その他細かい要件あり)、
- 「雇用サービスセンター」に必要書類一式を提出していること、
- 書類提出日から15日以内に職を見つけていないこと(例外規定あり)
いくらもらえるか?(雇用法第50条2項)。
失業手当の受給額は、失業前の6カ月間の平均賃金額の60%。
ただし、地域別最低賃金の5倍を超えない金額となる(雇用法第50条1項)。
どれくらいの期間?
失業保険の受給期間は、保険料納付期間によって変動。
納付していた期間が、12~36カ月間の場合は3カ月。保険料納付期間がその36ヶ月を期間を超えて12カ月増えるごとに1カ月受給期間が延びるが、最大で12カ月。
貰える失業手当 | 貰える期間 | |
12~36カ月間の場合 | 失業前の6カ月間の平均賃金額の60%。 ただし、地域別最低賃金の5倍を超えない金額 ※失業保険に加入していなくても、退職手当がある場合もあり | 3ヶ月 |
上記より、12カ月増えるごとに1カ月受給期間が延びる | 最大で12ヶ月 |
★本日のまとめ★
本日は、ありがとうございました。
自粛要請による経済への影響、具体的にはキャッシュの状況が心配な企業がたくさんでてくることが予想されます。
これにより、苦渋の判断を迫られる社長様も出てきます。
今回はその場合の労働法について解説して頂きました。ありがとうございました。
解除・解雇のまとめ
どのように?解除?解雇? | 労働者の保護 | いくら? |
雇用主が労働契約を一方的に解除することができる。38条 | 48条:退職手当 保険に加入しない期間に対して、雇用主がその労働者に退職手当を支払わなければならない。 ※保険に加入していれば、そこから支払い | 退職手当を受ける対象は勤続12ヶ月以上勤務した労働者である。 退職手当の計算:勤続 1 年につき半カ月分の賃金に相当する失業手当を支給しなければならない。 |
雇用主は解雇することができる。44条 | 49条:失業手当 保険に加入しない期間に対して、雇用主がその労働者に解雇手当を支払わなければならない。 | 解雇手当を受ける対象は勤続12ヶ月以上勤務した労働者である。 解雇手当の計算:勤続 1 年につき 1 カ月分の賃金に相当する失業手当を支給しなければならない。但し最低でも 2 カ月以上の必要がある。 |
はい。
とても難しい局面だと思いますが、みんなで乗り越えていけたらと思います。
新型コロナウイルスによる政府による自粛制限によって、稼働ができず業績が著しく悪化した場合が想定される。
その場合、「不可抗力」に該当すると考えられる。
そのため38条が適用される可能性があり、使用者(社長)は、労働契約解除ができる権利を有する。
労働契約を解除された従業員は、社会保険に加入していれば、一定期間、失業手当を貰うことができる。
ベトナム労働法でお困りがあれば問い合わせください。
ベトナムの法律は、曖昧なところがあります。法律がこう記載されていても、実務はこうなんです。みたいなところもあります。
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