マナラボの菅野です。

今日のテーマは『棚卸資産のDDのチェックリスト』というテーマでお伝えします。
なおDDについてわからないと言う人もいると思いますのでその方は以下をチェックしてください。

>>ベトナムにおける財務デューデリジェンス(DD)の全体像を解説

ベトナム現地法人の買収や投資の際に必要な「棚卸資産」に関するデューデリジェンス(DD)です。これは、企業の財務健全性を確認するための第一歩であり、隠れたリスクを洗い出すために不可欠なプロセスです。
特にベトナムでは、企業文化や慣習の違い、コンプライアンスの意識の違いから、日本企業が想定していないリスクが存在することがあります。以下では、ベトナム現地法人の売上債権に関する具体的なチェックリストを紹介します。

ベトナムの勘定科目コードは以下の通りです。勘定科目のルールをきちんと把握しておくといいでしょう。

  • 151-158

>>ベトナムの勘定科目151~158(棚卸資産)について徹底解説!【勘定科目解説シリーズ】図解あり

この記事のもくじ

棚卸資産のDDチェックリスト

チェックリストのサンプルは以下の通りです。あくまでサンプルですので実際のDDにはこれをもとに戦略を強弱つけてたてることが大事です。ある程度網羅的だとは思いますが、以下が完璧なリストではありません。

カテゴリグループ

チェック項目チェック
会計ポリシーと評価基準グループ1-1,棚卸資産に関係する会計方針を確認したか?

⭐️1-2,滞留在庫の管理状況は適切か?貸借対照表上で評価が適切に行われているか?

1-3,物理的に劣化や損傷している棚卸資産が適切に管理され、評価が正確に行われているか?

1-4,市場価格が原価割れとなっている棚卸資産(原材料を含む)の評価が正しいか?(時価ある場合)

棚卸資産管理グループ

⭐️2-1, 棚卸資産の管理状況に不備がないか?

2-2,棚卸資産の主要な内訳が正確に記録され、適切に把握されているか?

2-3,委託在庫(預け在庫)がある場合、その内容が適切に管理されているか?未出荷の売上の管理は適切か?

⭐️2-4, 不正海外の会社特有のリスクとして、棚卸資産の原価外払出しやスクラップの処理に不正がないか?

実地棚卸,差異分析グループ

⭐️3-1, 実地棚卸の実施状況が適切で、棚卸差異が発生した場合にその原因が明確になっているか?

3-2, 棚卸資産の廃棄処理に関する方針や運用状況が適切か?

分析グループ

4-1,棚卸資産の回転期間分析が実施され、回転効率が適切に把握されているか?

4-2, 調査対象期間における棚卸資産の増減要因が明確で、異常な変動がないか?

関連取引・関係会社グループ5-1,関係会社が占める棚卸資産の残高が適切に把握されているか?適正在庫も確認

それぞれ解説します。

1, 会計ポリシーと評価基準グループ

1-1 棚卸資産に関係する会計方針を確認したか?

買収対象会社の棚卸資産の会計方針を確認します。買収後の会計方針の整合性なども検討しなければいけないからです。

棚卸資産の会計方針(ルール)を確認しすることが重要です。具体的には

  • 評価基準(先入先出法とか)
  • 低下法など

があります。以下のコンテンツも参照してくださいませ。

>>【ベトナム会計】ベトナムに進出する人のための棚卸資産の“評価方法”の基礎知識の解説

>>ベトナムの勘定科目229(資産性評価引当⾦ )について徹底解説!【勘定科目解説シリーズ】

1-2,滞留在庫の管理状況は適切か?貸借対照表上で評価が適切に行われているか?

滞留在庫の定義とその管理方法を確認。余剰在庫も確認。

滞留在庫とは、一定期間以上動きのない在庫を指します。この定義を確認しましょう。ビジネスによって異なるからです。きちんと管理している会社であれば「年齢表」のようなシートを作っています。

これが適切に管理されていない場合、価値のない在庫を持っている会社を買収してしまうことになります。それだと困ってしまいますよね。

1-3,物理的に劣化や損傷している棚卸資産が適切に管理され、評価が正確に行われているか?

劣化や損傷した棚卸資産が価値を持つかどうかを確認。

劣化や損傷した棚卸資産があれば、それをきちんとリストで管理しているか?を確認する必要があります。市場価値を持つかどうかを確認し、評価減を適切に計上する必要があるからです。壊れた製品であって実際には価値がなく売れないのに、例えば100万円で計上されていたら違和感ありますよね。

1-4,市場価格が原価割れとなっている棚卸資産(原材料を含む)の評価が正しいか?(時価ある場合)

市場価値がある場合はそれもチェック。

滞留や物理的な劣化がなくても、市場価格が原価を下回る棚卸資産については、評価減を行う必要があります。例えば、ベトナムの電化製品メーカーが、大量の半導体チップを在庫として保管している場合などで、新しい技術が市場に導入され、既存の半導体チップの需要が急減し、市場価格が購入時の原価を大幅に下回ることがあります。

これにより、将来的な損失リスクを事前に計上し、財務諸表の透明性を確保します。

2,棚卸資産管理グループ

2.1 棚卸資産の管理状況に不備がないか?

そもそも棚卸の管理してますか?を確認。

棚卸資産が適切に管理されているかを確認します。具体的には、在庫の受入・保管・出庫プロセスが適切に実施され、記録が正確であるかをチェックします。棚卸法なのか?継続記録法なのか?の確認もしましょう。

2.2 棚卸資産の主要な内訳が正確に記録され、適切に把握されているか?

そもそも棚卸の内訳がわかるようになっていますか?正しいですか?

棚卸資産の種類(原材料、仕掛品、製品など)ごとに主要な内訳を確認し、記録が正確であるかを評価します。不明確な内訳は在庫の誤評価や不正の温床となります。

2-3,委託在庫(預け在庫)がある場合、その内容が適切に管理されているか?未出荷の売上の管理は適切か?

委託在庫の管理とその在庫の実地棚卸管理。また未出荷売上の在庫の管理。

委託在庫は、委託販売などに伴う取引先に預けた在庫を指します。これが適切に管理されていない場合、実態とかけ離れた数字が帳簿に反映されるリスクがあります。

例えば、架空売上など。

また未出荷売上は売上は計上されたけど、未出荷となっている在庫のことです。これも上記と同様に架空売上のリスクがあります。

2-4, 不正海外の会社特有のリスクとして、棚卸資産の原価外払出しやスクラップの処理に不正がないか?

棚卸資産の原価外払出し(例、サンプルとしての払い出し)やその横領、スクラップの盗難に不正が発生する可能性があります。このようなリスクを特に注意深く確認します。

ベトナムの製造工場で、倉庫管理者が架空の「部品払い出し」を記録し、その部品を市場で転売して利益を得るなどの事例もあります。

またスクラップの横領の事例もあるのでここは要注意!

>>【海外不正】スクラップの不正の2つのパターンとそれを防止する3つの方法

3, 実地棚卸、差異分析グループ

3-1, ⭐️実地棚卸の実施状況が適切で、棚卸差異が発生した場合にその原因が明確になっているか?

そもそも実地棚卸を実施しているか?そして、実地棚卸の結果と帳簿記録を照合し、差異が発生した場合、その背景を分析しているか?

差異が恒常的に発生している場合、不正や管理の不備の可能性が考えられます。

実地棚卸しているか?の内部統制は非常に大事です。これはやっていない会社であればかなり危険。そして実施しているのであれば差異がどれくらい生じているのか?も確認する必要があります。在庫の実態と帳簿記載内容が一致しているか?の確認が重要です。

以下のリンクの内容も参考になるのでぜひご覧ください。

>>実地棚卸の目的を、あまく見ていたら1,000万円も失いました。

>>🔓M-Lab_〜11年の海外経験で解説!〜日本法人の海外担当者と現地駐在員がおさえるべきベトナム法人の不正防止・実地棚卸管理の資料【資料】

3-2, 棚卸資産の廃棄処理に関する方針や運用状況が適切か?

廃棄処理の基準が不明確である場合、過剰在庫や不良在庫が帳簿上に残り、財務状況を悪化させるリスクがあります。

棚卸資産の廃棄処理に関する方針や運用状況を確認することは、企業が在庫を正確に管理し、不正や無駄を防ぐ上で重要です。これは利益操作のために対象会社が、棚卸の破棄を意図的に遅らせ利益を課題計上している可能性があるからです。

4, 分析グループ

4-1, 棚卸資産の回転期間分析が実施され、回転効率が適切に把握されているか?

棚卸資産の回転期間は、重要な指標です。回転期間が長い場合、滞留在庫の増加や資金繰りの悪化を意味するため、改善点を特定します

これはわかりやすくいえば「仕入れてから売れるまでどれだけの期間か?」という分析です。たとえば1月に仕入れして3月に売れるのであれば3ヶ月となります。

これが長すぎると「あれ、大丈夫かな?売れる価値あるのかな?」となり資産の評価が大丈夫なのか?という疑問が生まれます。これを回転期間分析によって効率的に分析します。

>>【財務分析解説】知らないと損する!棚卸回転期間分析を解説します【図解あり】

4-2, 調査対象期間における棚卸資産の増減要因が明確で、異常な変動がないか?

棚卸資産の増減要因を分析し、特に異常な増減が見られる場合は、その背景を調査します。不正や在庫の過剰計上の兆候を早期に発見できます。

月次分析が有効でしょう。特に異常な増加がある場合は要注意です。

 

5,関係会社グループ

5-1,関係会社が占める棚卸資産の残高が適切に把握されているか?適正在庫も確認

親会社などの取引がある場合はそれも注意

関係会社との取引で不透明な在庫移動が発生していないかを確認します。特に、意図的な利益操作のリスクがあるため注意が必要です。いわゆる「飛ばし」(不良在庫の帳簿譲渡)のリスクもあるためです。

在庫の適正な水準が維持されているかを確認します。連結パッケージを作成しているような会社であればそこから確認もできますね。

>>【プロ会計士がアドバイス!】ベトナム子会社が成功するための連結財務諸表のための連結パッケージ入門

棚卸のDDチェックリストのまとめ

棚卸資産に関するデューデリジェンス(DD)では、企業の在庫管理や評価に潜むリスクを明確にし、適切な対策を講じることが重要です。このチェックリストは、会計ポリシーや評価基準、回収可能性、滞留在庫、委託在庫、原価外払出しやスクラップ処理、廃棄方針など、棚卸資産に関する広範なポイントを網羅しています。特にベトナムのような新興国市場では、不正や管理不備に起因するリスクが高まるため、現地特有の事情を考慮することが欠かせません。具体的には、時価が原価を下回る在庫の評価、滞留在庫や未出荷在庫の管理状況、廃棄処理やスクラップの適切性などが重要な検討項目です。本チェックリストは、これらのリスクを体系的に洗い出し、適切な在庫管理の実現に役立ちます!

弊社マナボックスでは経験豊富な専門家(10年以上の経験を持つ公認会計士)が財務DDも支援しています!