今日は、会計方針について徹底解説したいと思います。まず定義から。

会計方針とは、企業が財務諸表を作成する際に適用する 会計処理の原則、規則、および手続き を指します。具体的には、収益や費用の認識基準、資産や負債の評価方法、在庫や固定資産の減価償却方法など、財務情報を一貫して適切に測定し報告するための指針を定めたものです。

要するに「モノサシ」のようなものです。1つの方法だけじゃなく、この方法の範囲内だったらできますよ〜。というお話でもありませす。

ベトナム会計方針の具体的規定のリスト

まずリストアップしますね。

  • 在庫評価(FIFO、加重平均法、NRVなど)
  • 固定資産の減価償却方法(定額法、定率法、生産高比例法)
  • リース取引の会計処理(オペレーティングリース、ファイナンスリース)
  • 収益認識の基準(実現主義、契約履行基準など)
  • 費用認識(発生主義、税務との整合性)
  • 引当金(貸倒引当金、賞与引当金、退職給付引当金)
  • 金融商品の評価(取得原価主義、時価評価)
  • 為替換算のルール(期末レート、取引時レート)
  • 連結財務諸表の作成基準(子会社・関連会社の範囲)
  • 重要性の原則や開示基準
  • その他、企業が会計方針として定めるべき項目

それぞれ深く解説していきます。

在庫評価について

在庫(棚卸資産)は取得原価で計上し、正味実現可能価額(NRV)が取得原価を下回る場合はNRVまで評価減します​。

取得原価の算定方法として、企業は先入先出法(FIFO)、加重平均法、個別法などから採用方法を選択可能です(VAS 02の当初規定では後入先出法(LIFO)も含まれていましたが、2014年の通達200号で廃止されました​。

>>【ベトナム会計】ベトナムに進出する人のための棚卸資産の“評価方法”の基礎知識の解説

期末には在庫の評価損失引当金(棚卸資産評価引当金)を計上して、簿価をNRVまで引き下げることが認められています。

>>第48/2019/TT-BTC号の完全解説:ベトナムにおける引当金計上のポイントと注意点

固定資産の減価償却について

有形固定資産の減価償却方法は定額法定率法生産高比例法の3手法が認められており​、企業は資産の経済的効果に応じて適切な方法を選択します。​

>>【図解あり】インドの製造会社で経理部門の責任者だった公認会計士が説明する!「減価償却費」ってなに?

定額法は耐用年数にわたり毎期均等額を費用化する方法、定率法は初期に多額の費用配分を行い徐々に減少させる方法、生産高比例法は総生産量に基づいて費用配分する方法です。それぞれの方法に法令上の適用条件があります。例えば、定率法は新品の機械装置等に限る、生産高比例法は製造設備で実際の操業度が計画の50%以上などの条件を満たす必要があります​。実務的には99%定額法だとは思います。

減価償却費は発生した期間の費用として計上され(資産の取得原価に含める場合を除き)、財務諸表の注記には適用した減価償却方法と耐用年数(または率)を開示することが求められます​。

リース取引の会計処理

リースはファイナンス・リース(金融リース)とオペレーティング・リースに区分されます。VAS第06号「リース」によれば、リース期間終了時に資産の所有権移転や買い取りオプションがあるなど、資産の所有に伴うリスクと経済的利益の大部分が借手に移転するリースはファイナンス・リースとみなし、それ以外をオペレーティング・リースと定義しています​。

ファイナンス・リースの場合、借手(リース利用企業)はリース資産を固定資産として計上し、対応するリース債務を負債計上します。そしてリース資産について減価償却を行い、リース負債について実効金利法等で債務償却を行います。一方、オペレーティング・リースでは借手は賃貸借取引とみなしてリース料を期間費用(賃借料)として処理し、貸借対照表には資産・負債を計上しません(オフバランス処理)。この区分基準や会計処理方法は旧IAS第17号と類似しており、IFRS第16号(リース)で要求される「使用権資産」のオンバランス計上(短期・少額リースを除く)はVASにはまだ導入されていません​。

そのため、ベトナムでは従来型のリース区分に基づく会計方針となっています。このあたり随時アップデートが必要。

>>【金持ち父さんから学ぶ】ファイナンスリース取引の仕組み【IFRS16号(新リース会計基準)の理解も役立つ!】

そのため、ベトナムでは従来型のリース区分に基づく会計方針となっています。

収益認識の基準について(難しいので無視)

いつ売上が計上されるの?という話です。

>>ベトナムの収益認識基準(売上をいつ計上?)を3つの観点で整理

ベトナムでは収益認識に関する基準としてVAS第14号「収益およびその他の収入」およびVAS第15号「建設契約」があり、旧IAS第18号(収益)およびIAS第11号(工事契約)に基づくルールベースの基準です​。そのため、実現主義に則り、商品販売収益は「商品の所有権に伴う主要なリスクと経済価値が買主に移転し​、企業が販売した商品の管理支配権を失い、収益額が合理的に測定可能で、経済的利益の流入がほぼ確実であり、関連する費用を合理的に算定できる」時点で計上します​。

VAS14では収益計上の5つの条件として上記のような事項(リスク・利益の移転、管理支配権喪失、収益額の確実性、経済的利益の流入見込み、費用の測定可能性)が明示されています​。

サービス提供収益は契約の完了度合いに応じて各期に按分認識する工事進行基準(進行割合法)が採用され、複数期間にまたがるサービスや建設契約では、その期までの成果に応じて収益・費用を認識します​。

なおIFRS第15号で導入された「履行義務に基づく収益認識モデル」(契約から生じる権利義務に基づき段階的に収益認識する考え方)はVASでは未適用であり、ロイヤルティや利息・配当は発生主義にもとづき受取権利が確定した時点で収益計上するなど、旧来の実現主義に沿った処理が行われています​

費用認識(発生主義と税務との関係)

ベトナムの会計は発生主義(アクルーアル・ベース)を採用しており、費用は実際の支出の有無にかかわらずその発生事象に基づいて計上し、収益との対応関係(期間対応)を図ることが原則です。

VAS14でも「収益とそれに対応する費用は同時に認識しなければならない」(期間対応の原則)と規定されており​、たとえば販売した商品の保証費用など販売後に発生が見込まれる費用も、収益計上条件を満たした時点で発生見積もり額を確実に算定できる場合は同時に費用計上することが求められます。

以下のリンクにも対応関係については記載しています。

>>【8つのストーリー】ビジネスと関連するから会計はおもしろい!財務諸表をわかりやすく!【図解とパズル】カネ・モノ・ヒトとB/SとP/Lのつながりを学ぶ

一方でベトナムの税務(法人税)規定との整合性も実務上重視されます。税務上損金算入が認められる費用のみを会計上計上する傾向があり、会計基準上は認められる減価償却費・引当金等でも税法上の限度を超える部分は損金不算入となるため、企業はその範囲内で費用計上する場合があります。

例えば、広告宣伝費は売上高比率による損金算入限度が設けられていた時期があり(現在は撤廃らしい)、その間は企業が会計上もその限度内で費用処理を行うケースが見られました。

また、後述のように税務上認められる引当金の種類が限定されているため、会計上もそれに合わせて処理することで税務調整を軽減する実務もあります。基本的には会計方針として発生主義・期間配分の原則を遵守しつつ、税務上認められない費用(例えば一部の引当金や過大な交際費等)については別途法人税申告上加算調整することになります。

引当金(貸倒引当金、賞与引当金、退職給付引当金など

ベトナムの会計・税務制度では、計上が認められる引当金は「棚卸資産評価引当金」「投資損失引当金」「貸倒引当金」「製品・サービス・工事保証引当金」の4種類のみと明確に規定されています​。在庫のところは大事なので上記で別で説明しました。

(財務省通達48/2019/TT-BTC)。これらは年度末に合理的な見積もりに基づいて計上すれば法人税上も損金算入が認められる引当金です。代表的なものとして貸倒引当金があり、回収懸念のある売掛金など債権について、債務者の倒産・失踪や一定期間以上の滞留など所定の条件を満たせば、見積額を引当金繰入れ費用として計上できます​

(実際の規定では債権額の100%まで計上可能なケース等が詳細に定められています)。棚卸資産評価引当金は前述のとおり在庫の時価低下分の引当て、投資損失引当金は子会社・関連会社株式や長期投資の価値減少分の引当て、製品保証引当金は販売した製品や工事に関する保証・アフターサービス費用の見積もり引当てを指します。

これら4種以外の賞与引当金退職給付引当金については、VAS上明確な規定がなく税務上も原則損金不算入のため、一般的なベトナム企業では必ずしも引当金計上しません。賞与(ボーナス)に関しては、従業員への業績賞与が年度末に取締役会決議等で確定した場合、その支給額を当期の未払費用(賞与費用)として計上する実務があります。ただし税務上は、翌期に支給が行われ年度末から90日以内に実際に支払われた賞与のみ損金算入が認められるため、支給が遅延した場合は税務調整が必要です。

退職給付引当金(退職給与・退職一時金の引当)については、ベトナムの労働法上、勤続12か月以上の従業員が自己都合退職する際に一定の退職手当(勤続期間×給与の割合)を支払う義務があり、これが会計上「確定給付債務的」な性質を持ちます​。

【ベトナム労働法】「退職金」についてこんな勘違いをしていませんか?【退職金が発生する4つのケース】

しかしVASには年金・退職給付会計基準がなく処理が統一されていません。実務上は見積額を引当金として計上する企業(アプローチ1)と、支給時にその都度費用処理する企業(アプローチ2)に分かれますが、将来の退職金支払いに備えて引当金を積む方法(アプローチ1)が一般的に受け入れられているといえます。これも会社によってまちまちです。

もっとも、税務上は実際に支給した退職手当しか損金算入できないため、計上した引当金は税務調整(加算)となります。このように、VAS上は必要に応じて各種引当金を計上しますが、税務との整合も考慮しながら運用されます。

金融商品の評価(これも無視していいです)

ベトナム会計では取得原価主義が基本原則であり、金融商品に関する包括的な時価評価基準(IFRS第9号のようなもの)は存在しません​。

企業が保有する株式・社債等の金融資産は、売買目的の短期有価証券であっても時価で再評価せず取得原価(購入原価)で計上し、期末に時価が下落している場合に限って評価損相当額の「投資損失引当金」を繰入計上することで減損処理を行います(評価益があっても実現するまで認識しません)。満期保有目的の債券などは償却原価法により債券利息法(定額法)で実効金利に基づく償却原価へ調整しますが、時価評価による含み損益の計上は行いません。また、デリバティブ(金融派生商品)についてVASの明確な基準はなく、原則として貸借対照表外で管理される傾向があります​

例えば為替フォワード契約やオプション取引は、その時価を毎期認識するのではなく、支払ったプレミアム(オプション料)等のみを資産計上して期間按分し、契約決済時に最終的な損益を計上する方法が一般的です​

この点、IFRSでは金融商品は初任時も期末も原則として公正価値(フェアバリュー)評価し、デリバティブはすべてオンバランスシートで時価評価(ヘッジ会計適用を除き評価損益を当期損益計上)しますが​、VASには公正価値会計の概念がほとんど導入されていません​。ただし、例外的に事業結合における被取得資産・負債の評価や、非貨幣性資産交換時の評価、出資に対する株式の交換(株式交付取得)時など、特定の取引では公正価値を算定して会計処理する指針があります​。また投資不動産についてはVAS第05号で取得原価モデルのみ認め、公正価値は注記開示のみ許容(信頼性が低い場合は開示不要)と規定されています​。

総じて、ベトナムにおける金融商品の評価は歴史的原価ベースで慎重に行われ、時価評価による資産計上は限られた場合を除き行われません。

為替換算のルール(ここは日系企業はよくある論点)

外貨建取引および財務諸表の換算についてはVAS第10号「外国為替相場変動の影響」に定めがあります。個別企業の外貨取引は、取引発生時に適用為替レート(取引日レートまたは実勢レート)で記録し、期末には貨幣性項目(現金・預金、売掛金・買掛金、借入金など貨幣価値で回収・支払される項目)を期末日時点の公定為替レート(銀行買相場など)で換算します。

期末換算差額および外貨建取引の決済時に生じる為替差損益は、その発生した期の損益(営業外損益)として認識します​。

>>ベトナム外貨建債権・債務から生じる実現・未実現損益の違いとは?【財務費用と財務収益】

>>ベトナムの外貨建取引の換算ルール:期中と期末の違いを徹底解説

一方、非貨幣性項目(棚卸資産・固定資産など貨幣性ではない資産)は取得原価で保有する限り換算を行わず、取得時のレートで据え置きます​

(例えば外貨建てで購入した固定資産は取得時のレートで記録し、その後期末に時価評価しないため換算差損益も発生しません)。ただし非貨幣性項目でも、公正価値評価される場合(例:時価評価する金融商品や時価評価モデルを適用した特定資産がもしあれば)は、その評価時点のレートで換算します​。

連結財務諸表における海外子会社の換算についてもVAS 10で規定があり、基本的に**現在レート法(closing rate method)**が採用されます。すなわち、海外の在外事業体(外国子会社)の資産・負債は期末レートでベトナムドン換算し、収益・費用は発生時のレートまたは平均レートで換算して連結します​。

換算差額は貸借対照表の資本の部(換算差額調整勘定)で処理されます​。

このアプローチもIFRSのIAS第21号と概ね一致しています。なお、ベトナムの企業は通常会計通貨としてベトナムドン(VND)を使用しますが、取引の大半が外貨で行われる企業は財務省の許可を得てUSD等を記帳通貨に採用することも可能です​。

(ただし対外的な財務報告はVND換算で提出する必要があります​)。

連結財務諸表の作成基準(これも無視でいいかもです)

複数の子会社を持つ企業グループは連結財務諸表の作成が求められます(上場企業等は必須)。**子会社(subsidiary)**の範囲はVAS第25号「連結財務諸表および子会社投資の会計」に定められており、一般に親会社が被投資会社に対して議決権の過半数(>50%)を所有しているか、財務・営業方針を支配する権利を実質的に有している場合に、その被投資会社は子会社とみなされ連結範囲に含めます。これは旧IAS第27号の支配概念に基づくもので、**支配力基準(コントロール)は主に持株比率で判断され、IFRS第10号が規定するような潜在的投票権や変動利益に基づく広範な支配の定義はVASでは明文化されていません​。

「親会社から連結パッケージお願いされてるんです〜」みたいなことはよくあるので以下のリンクの内容はおさえておくといいでしょう。

>>【プロ会計士がアドバイス!】ベトナム子会社が成功するための連結財務諸表のための連結パッケージ入門

一方、親会社が20~50%程度の議決権を有し重要な影響力を行使できる関連会社(associate)**については連結の対象外ですが、持分法または原価法で会計処理します(VAS第07号等に規定)。実務では、親会社単体の財務諸表上は子会社・関連会社株式を取得原価で計上し、別途作成する連結財務諸表において子会社は買収法により取り込まれ、関連会社は持分法で取り込まれる形になります。

なお、少数株主持分の表示方法や子会社と親会社の会計方針の統一など、連結手続きの詳細はVAS25で規定されています。IFRSとの差異としては、IFRS10では支配の判断に「投票権による支配の有無」だけでなく「変動リターンへのエクスポージャ」と「支配とリターンの関連性」といった基準を追加していますが、VAS25ではそこまで詳しく言及されていません​。

重要性の原則や開示基準

ベトナムの会計制度でも重要性の原則(マテリアリティ)は財務報告の基本概念として認識されています。重要性とは、ある金額または項目の漏れや誤りが財務諸表利用者の意思決定に影響を及ぼす可能性がある程度を指し、その判断には金額的影響だけでなく性質(質的重要性)も考慮されます​。

重要性に応じて表示や開示の詳細度を決定し、重要性の乏しい項目は簡略表示または非開示とすることが許容されます。またVASや関連法令では、重要性に関連していくつかの定量的基準も定められています。例えば固定資産として計上するための最低金額基準があり、現在は「取得原価が3,000万ドン以上」であることが固定資産認識の要件とされています​。

(3,000万ドン未満の物品はたとえ耐用年数が1年超でも消耗品等として費用処理)。このように、IAS第16号では固定資産の資産計上閾値を設けていませんが、VASでは法令上明確な価額基準を設けることで重要性の判断を画一化しています​。正直ここが一番論点になりますね。

>>【ベトナム勘定科目】固定資産・前払費用の仕訳のパターンをデザインする!【図解あり】

開示基準については、VAS第21号「財務諸表の表示」で財務諸表の構成要素として注記を含むことが定められており、注記には重要な会計方針(Significant Accounting Policies)の概要および財務諸表本表の各項目に関する追加情報を記載するよう要求されています​。

これはIFRSや日本基準と同様で、例えば減価償却であれば適用した方法・耐用年数、在庫であればコスト算定方法(FIFO等)や評価損計上の有無、引当金であれば計上方針と残高、金融商品であれば時価情報やリスク情報などを注記で開示します。

また、関連当事者取引や偶発債務(保証・訴訟など)、後発事象に関する開示基準もVAS第26号等で定められており、基本的にはIFRSに類似した内容です(IFRSに比べ開示項目が簡素な部分もあります)。

総じて、企業は財務諸表において重要性の原則に従い必要十分な開示を行う義務があり、監査法人も監査を通じて注記の適切性をチェックします。間違っているけど金額が小さいんだから無視しても大きな影響ないでしょ?ということです。

その他会計方針として定めるべき項目:

上記のほか、企業は会計年度(事業年度)および会計期間を定めます。ベトナムでは会計年度末日は通常12月末ですが、3月・6月・9月末から選択することも可能です。

。また記帳通貨(会計通貨)は原則ベトナムドンですが、前述の通り必要に応じ財務省の承認を得て米ドル等の外貨を使用できます​。

新設法人は設立後に税務局へこれら会計年度や通貨、適用会計制度・基準、在庫評価方法、減価償却方法など主要な会計方針を通知することが求められています​。

>>ベトナムで法人設立後にすぐに実施しなければいけないこと【設立後初期手続き】 初期手続きの概要を解説

(通知内容は企業の業種によりますが一般的事項は上記の通りです)。そのほか、無形資産の償却(基本的に定額法で耐用年数にわたり償却し、のれんは一定年数で償却処理する等)、借入費用の資本化(原則として長期資産の取得に直接要する借入利息のみ資本化可、VAS第16号)など、企業の会計方針として定めておくべき項目があります。いずれもVASの規定に沿っており、企業は自社の状況に即した方法や適用範囲をマニュアル等で定める必要があります。