こんにちは!マナラボの菅野(すげの)です。

「え、またインボイス制度変わるの?」

そんな話をベトナム人専門家から聞きます。

はい、変わるんです。しかも、けっこう大きく。

2025年6月1日から、政令70/2025/ND-CPが施行されます。これは、すでに運用されている政令123/2020/ND-CPを大幅に見直すもので、なんと61条中、40条が改正・補足されています。

でも…40条って多すぎませんか?

すべて覚えるなんて、現場では現実的じゃありませんよね。

ということで、この記事では「現場の経理担当者」「中小企業の社長」にとって、**実務に大きく影響する“8つのポイント”**に絞って、わかりやすく解説していきます。

今日のテーマはこんな感じです!

  • 政令70ってそもそも何なのか?
  • 請求書まわりで何が変わるのか?
  • うちの会社にとって、どういう準備が必要なのか?

この記事を読むと、
「なんとなく不安…」が「ちょっとわかってきたかも!」に変わるかもしれません。

この記事のもくじ

「政令70」って、実は“上書きファイル”です

まずは用語の整理からいきましょう。

政令70/2025/ND-CPは、単独の新しい法律ではありません。
これは、すでにある政令123/2020/ND-CPという、インボイスと帳票ルールのベース文書に対しての“改正版”なんです。

>>【ベトナムインボイス】政令123/2020/ND-CPの条文構造とポイントを完全解説!

つまりこういうことです:

💡「政令123が元ファイル、政令70はその上書き修正」

この「上書き」がなかなか多くて、全61条中、40条が変更されています。
そう聞くと、「え、じゃあ全部変えないといけないの?」と焦る方もいらっしゃるかもしれません。

でも大丈夫。
全部じゃなくて、重要なポイントに絞れば、対応は現実的です

視点①|経営者として押さえておきたい変更点

まず、経営者の皆さんにぜひ知っておいていただきたいのがこちらの条文です👇

条文ポイントなぜ大事か?
第4条インボイス発行の基本ルール経営者が「インボイス制度に無関心」で済まされない時代に。体制整備の土台です。
第5条禁止行為の明文化偽造・賄賂・送信拒否など、「やってはいけないこと」が明記。リスクマネジメントに必須。
第16条インボイス使用停止違反があれば、インボイスを出せなくなる。つまり、売上が計上できない。これは怖いです。
第60条移行措置と期限猶予があるからといって油断していると、切り替え時に一斉トラブルになることも。

4つあります。

詳しく解説します。なおタイトルの条文は政令123/2020/ND-CPの条文です。

【第4条】インボイスの基本ルールに「第三者発行」が追加されました

📌 変更点(政令70 第1条 第3項による追加)

“Goods sellers and service providers are allowed to authorize third parties to issue e-invoices…”
(販売者・サービス提供者は、第三者に電子インボイスの発行を委任することが可能になりました)

💡 なぜ変わったのか?
インボイス発行業務を外部に委託したいというニーズ(例:BPO、クラウド請求システム)に対応したものです。企業としては、業務効率化・内部リスクの軽減につながる可能性があります。

🛠 実務ポイント:

  • 委任は書面契約が必要(目的・期間・支払い方法を明記)
  • 税務署への通知が必須
  • 認証なしインボイスの場合、委任元が送信責任を負う

【第5条】禁止行為がめちゃくちゃ具体的になりました

📌 変更点(政令70 第1条 第4項にて明文化)

  • Forging invoices and documents
  • Obstructing tax officers
  • Failing to transfer data
    などが明記されました。

💡 なぜ変わったのか?
これまで抽象的だった「違反行為」を、誰が見てもNGだとわかるように具体的にしたルールです。
税務調査や監査の根拠にもなります。

🛠 実務ポイント:

  • 社内不正・改ざん対策を強化するきっかけに
  • 委託先(請求代行業者など)にも明確な契約が必要
  • 社内ルールで「やってはいけないこと」を明文化しておくと安心

【第16条】“インボイスが止まるリスク”が明文化されました

📌 変更点(政令70は第1条第12項を修正)

Tax authorities can suspend e-invoice usage if an enterprise is classified as high-risk or commits violations.
(高リスク企業や違反があれば、インボイス使用停止の処分が可能に)

💡 なぜ変わったのか?
電子化によって不正も高度化しています。
制度の信頼性を守るために、厳格な制限措置が必要という流れです。

 実務ポイント:

  • 税務調査対応の履歴や、帳票の送信ログをきちんと保存しておく
  • 税務署からの通知が届いたら即対応する体制が必要
  • 誤送信・未報告でも累積で「高リスク」と判断される可能性あり

【第60条】「経過措置」はあるけど油断禁物です

📌改正内容(政令70 第60条はそのまま継続適用)
明文化されたわけではないですが、電子インボイス導入に関する移行措置やサポート制度は残されています

💡 なぜここが大事?
「まだ準備できてません」と言い訳する猶予はあるけど、申請・体制構築を後回しにしていると一気に追い込まれる可能性があるためです。

🛠 実務ポイント:

  • 移行計画を立てて、社内での担当者を明確にしておく
  • 会計ソフトやPOSレジが新制度に対応しているか事前確認
  • 猶予期間終了後に突然「違反事業者」と見なされることも

これら4つの条文は、経営者の意思決定や事業運営に直接かかわる「制度リスク」と「対応の方向性」を示しているものです。

視点②|実務担当者が困らないために知っておきたいこと

次に、経理や総務などの現場で対応されている皆さんにとって、
「これが変わるのか〜」というポイントを紹介します。こういった視点で経営者が見ておくとアクションしやすいです。

(📌=政令70/2025の引用付き)

【第9条】インボイス発行の「いつ」が業種別に細かくなりました(会計にかかわる)

変更点(政令70 第1条 第6項)

For export of goods… invoice must be issued no later than the next working day after the goods are cleared through customs.
(輸出商品の場合、通関完了日の翌営業日までにインボイス発行が必要)

💡 なぜ変わったのか?
「いつ出せばいいのか」の曖昧さが、税務署とのトラブルのもとになっていたからです。
今回の改正では、輸出・医療・カジノ・宝くじなど、業種別にルールが細かく明文化されました。

実務ポイント:

  • サービス完了日や通関日を基準に発行期限を設定
  • 複数納品や部分提供がある場合は分割発行も検討
  • 会計処理の締め日や、請求フローとの整合性を取る必要あり

【第11条】POSレジからの電子インボイス発行が義務化(飲食店などは注意!)

📌 変更点(政令70 第1条 第8項)

Households and businesses with annual revenue over VND 1 billion must use e-invoices from POS cash registers.
(年商1億VND以上の個人・法人事業者は、POSレジと連携した電子インボイスの発行が義務に)

💡 なぜ変わったのか?
小売・飲食業など、現金ベースでの脱税リスクが高い分野の透明性を確保するためです。
レジの売上がそのままインボイスとして記録されることで、改ざんの余地が減ります。

🛠 実務ポイント:

  • POSレジのシステムが税務総局の規定フォーマットに対応しているか要確認
  • 電子インボイス発行と同時に、送信・保存ができる仕組みが必要
  • 顧客への交付方法(SMS, QR, メール等)を整備しておくとスムーズ

【第19条】インボイスの誤記訂正・差し替えルールが明文化されました

📌 変更点(政令70 第1条 第13項)

…the seller shall issue a correction invoice or replacement invoice… and notify the tax authority.
(販売者は誤記があった場合、訂正用または差し替え用のインボイスを発行し、税務署に通知する)

💡 なぜ変わったのか?
これまで「なんとなく再発行」していたものが、正式に“訂正”か“差し替え”かを選んで処理する必要が出てきました。

実務ポイント:

  • 訂正:元の請求書の番号・日付・訂正内容を記載
  • 差し替え:完全に新しいインボイスとして扱うが、元番号を明記
  • 一部訂正でも、税務署への通知(電子)と記録保存が必須に

【第29条】インボイスの使用状況の報告(BC26フォーム)が厳格化されました

📌 変更点(政令70では様式の修正を含む明文化)

Taxpayers must submit reports on used, unused, and canceled invoices using Form No. BC26.
(使用済・未使用・取消したインボイスを、「BC26」フォームで報告する義務)

💡 なぜ変わったのか?
インボイスの発行数や破棄数を適切に管理し、不正利用や紛失のリスクを減らすためです。

実務ポイント:

  • 四半期または月単位での提出が必要(業種・規模により異なる)
  • 会計ソフトとの連携機能があると便利
  • 使用済み・未使用・破棄・紛失すべての記録を正確に管理しておくことが重要

この4つは、実務担当者が日常で最も関わる可能性の高い改正点です。ただレビューするとか署名するといういいで経営者にとっても影響が大きいですね。

どれも「やっているつもりが、ちょっとした形式ミスで違反になる」こともあるため、
あらためてフローや帳票の見直しをおすすめします。

視点③|顧客対応・社外連携で気をつけるポイント

視点③です。

【第56条】「インボイスをください」と言われたら、断れません

📌 改正の要点:政令70ではこの条文に変更はありませんが、
個人消費者(B2C)を含め、購入者がインボイスを請求できる権利が政令123の段階で明記されています。

Purchasers have the right to request legal invoices from the sellers and use them for tax, accounting, and proof of ownership purposes.
(購入者は、売り手に合法なインボイスの発行を請求する権利があり、税務申告・会計・所有証明に使える)

💡 なぜ大事か?
これまでB2B取引が中心だった電子インボイスの世界に、
「消費者の権利」が正式に入り込んできたという点が大きな変化です。

🛠実務ポイント:

  • POSレジから自動的にインボイスを提供できる体制があるか確認
  • 顧客情報(名前・電話番号など)を収集・記録できる運用設計
  • 「インボイスください」と言われたときに、迷わず対応できるオペレーションを構築

【第2条e号(新設)】外国のEC事業者も対象になりました。え〜!

📌 改正点(政令70 第1条により、政令123 第2条第1項にe項追加)

Foreign suppliers without a permanent establishment in Vietnam… that voluntarily register to use e-invoices…
(ベトナムに恒久的施設を有しない外国供給者で、電子インボイスの使用登録を行った者も本政令の対象となる)

💡 どういうこと?
たとえば、日本やシンガポールのSaaS企業が、ベトナムの法人や個人にサービスを提供したとします。
この場合、ベトナム側で電子インボイスの発行が必要になる可能性があるということです。

🛠 実務ポイント:

  • 海外取引先が電子インボイスを発行できるか、契約時に確認しておく
  • 自社が“代理で発行する”スキームも検討対象になることあり(外国企業がインボイスを出せないとき、**「代わりにベトナムのパートナーが請求書を出してくれる」**という仕組み)
  • 海外取引先から「インボイスは出してもらえません」と言われたら、この条文を根拠に「登録すれば可能」と説明できる
  • 外国法人からの請求において、電子インボイスの形式が合法かチェックする

ただし、今回の改正ではあくまで「自発的に登録した場合」となっており、強制ではなく“任意登録”のステージです(今後は義務化もあり得る流れかもしれません)。

【第58条】QRコード付きスタンプや電子連携の強化(特定業種)

📌 改正点(政令70 第1条 第38項)

Manufacturers or importers of products subject to special consumption tax… must scan QR codes… to connect stamp and e-invoice data.
(特別消費税の対象製品の製造者・輸入者は、スタンプと電子請求書データをQRで連携する義務)

💡 対象業界の例:
酒類・たばこ・家電・高級品など、スタンプ(印紙)を貼る義務がある商品が中心です。

実務ポイント:

  • 商品ごとにスタンプ+電子請求書を連動させた管理が必要
  • QR管理の導入にはIT整備と税務署との連携が前提
  • 消費者や販売店がQRを読み取って正規品か確認する社会になる可能性も

 この視点③のポイントは…

お客様(消費者)や海外取引先とのやりとりにおいて、
「請求書をちゃんと出せるか?」「インボイスとして使える形で渡せるか?」が、今後は“当然”に求められます。

いわば、インボイスは信頼の証明書
だからこそ、電子インボイスの整備は「売る側の信用を高める行為」でもあるんです。

対応マップ|ブログ記事 × 比較表 × 政令123/政令70の条文 × 視点カテゴリ

まとめますね。

視点ブログ記事の内容条文番号(政令123)比較表の項目名改正元・改正後の根拠(政令70)
視点① 経営者第三者によるインボイス発行はOK?第4条発行原則・委任発行第1条第3項により改正(委任OKに)
視点① 経営者禁止行為って何がある?第5条禁止行為の明文化第1条第4項:偽造・未送信などを具体化
視点① 経営者インボイスが止められるって本当?第16条使用停止の条件第1条第12項:高リスク企業への停止規定
視点① 経営者猶予期間ってあるの?第60条経過措置の継続改正なし(旧文の確認が必要)
視点② 実務担当いつ請求書を出せばいいの?第9条インボイスの発行時点第1条第6項:業種別ルールの細分化
視点② 実務担当POSレジから自動で出すの?第11条POSレジ連携インボイス第1条第8項:年商1億VND以上で義務化
視点② 実務担当インボイスを間違えたらどうする?第19条訂正・差し替えの明文化第1条第13項:訂正・再発行のルール追加
視点② 実務担当使用状況って報告必要?第29条使用報告(BC26)様式の明記・報告内容の詳細化(第1条)
視点③ 顧客対応「インボイスください」って言われたら?第56条購入者のインボイス請求権改正なし(123で既に規定)
視点③ 社外連携外国企業でもインボイス必要?第2条適用対象の拡大第1条第1項にe項追加(外国事業者含む)
視点③ 特定業界QRスタンプとの連携?第58条情報共有・QRコード義務化第1条第38項:特消税製品に対する要件

よくある誤解とその整理

  • 「うちは小規模だから関係ない」→ POSレジ使用&売上次第で対象になります。

  • 「電子インボイスは大企業向けでしょ?」→ すべての事業者に関係してきます。

  • 「紙で出してもいいんでしょ?」→ 猶予はありますが、移行の前提で準備が必要です。

いますぐ始められる3ステップ

例えば以下のようなアクションが考えられます。

  1. 自社の売上規模と業種を確認:POS対象かどうかをチェック
  2. 今のインボイス発行の流れを図にしてみる:だれが、いつ、どうやって出してる?
  3. 税務署のポータル登録・申請の準備:事前にやっておけば、切り替え時に安心です

最後のまとめ

法令って、たしかにちょっと難しくて敬遠したくなる気持ちもよくわかります。

でも、今回の政令70/2025/ND-CPは、
「よくわからないままなんとなくやっていた」業務を見直す、いい機会だと思っています。

全部を完璧に理解する必要はありません。
でも、「うちにはどこが関係あるんだろう?」と少しだけ立ち止まってみるだけで、
リスクを減らし、余計なトラブルを避けることができるかもしれません。

私も、今回の改正をひもときながら、
「ああ、これをきちんと伝えておきたいな」と思ったことがたくさんありました。

またどこかで制度や実務の話をやさしくまとめてお届けしますね。
それではまた、マナラボの菅野でした!