こんにちは!マナラボの菅野です。
ついに、法人税に関する重要改正がやってきました。
2025年6月14日、ベトナム国会にて**「法人所得税法の改正法」が正式に可決!**
今回の改正では、中小企業向けの低税率(15%・17%)の新設、優遇対象業種の大幅拡大、さらには免税・減税制度の見直しなど、これまでにない規模の“税制優遇パッケージ”が盛り込まれています。
「うちは中小だから関係あるかも?」
「スタートアップ支援って、具体的に何が変わるの?」
そんな疑問にお応えすべく、今回は国会提出の草案と実際の可決内容をもとに、改正ポイントを条文つきで徹底解説していきます!
この記事のもくじ
そもそも:現行の法人税率はどうなっているの?20%が基本
まずは2025年改正前、つまり現行の法人所得税制度をしっかり確認しておきましょう。
ベトナムの法人税率は、**2008年制定の法人所得税法(Luật Thuế thu nhập doanh nghiệp số 14/2008/QH12)**に基づき、その後の改正法(特に2013年改正法:Luật số 32/2013/QH13)により調整されてきました。
法的根拠:
法人所得税法 第10条(2008年法、2013年改正)
第10条第1項:
法人所得税の標準税率は22%である。ただし、2016年1月1日以降、以下の規定に該当する企業については20%の税率が適用される。
(※この条文は、2013年改正法の第1条第6項により追加された)
現行税率のまとめ
税率 | 適用条件 | 備考・根拠 |
---|---|---|
20% | 通常の企業 | 2016年1月1日から、旧22%から引き下げ(Luật số 32/2013/QH13) |
32〜50% | 石油・ガス、希少鉱物などの探査・採掘事業 | プロジェクトごとに税率が設定される(第10条第3項) |
改正ポイント①:⭐️低い法人税率が新設(15%・17%)
影響ある法人結構あると思いますよ。
2024年10月24日付で更新された**法人所得税法改正草案(Dự thảo Luật sửa đổi, bổ sung một số điều của Luật Thuế TNDN)**では、**中小企業向けの新しい税率区分(15%・17%)**の導入が明記されています。
📘【草案第10条】
第2項: 年間総収入が30億VND以下の企業には、15%の法人税率を適用する。
第3項: 年間総収入が30億VND超〜500億VND以下の企業には、**17%**の法人税率を適用する。
⚠️「年間総収入」は前年度の法人所得税課税期間における総収入で判断されます。新設法人の場合には、政府が定める基準によって適用可否が決まります(同条但書)。
💡 ざっくり日本円換算(1円 ≒ 165VND)すると以下のようになります。
- 30億VND ≒ 約1,818万円
- 500億VND ≒ 約3億円
👉 つまり、売上規模が比較的小さい企業にとっては、従来の20%より明確に軽減された税率が導入されることになります。
改正ポイント②:低税率が「適用されない」ケースが明確に定義されている
「売上が少ないから15%でOKでしょ?」と考えるのは、ちょっと危険です。
📘【草案第18条】では、低税率(第10条第2項・第3項)が適用除外となるケースが明確に列挙されています。
以下の所得・企業には15%・17%の税率は適用されない:
- 資本譲渡・出資権譲渡による所得
- 不動産譲渡による所得(※ただし、社会住宅の譲渡は除く)
- ベトナム国外の生産・事業活動による所得
- 石油・ガス・希少鉱物の探査・採掘による所得
- 特別消費税の課税対象となる製品・サービスの製造販売による所得(例:たばこ、酒など。ただし、自動車・航空機・ヨット製造プロジェクトは除外対象ではない)
- 親会社・関係会社が優遇税率の条件を満たしていない場合の子会社・関係会社
📌 特に注意すべきは「企業グループ」構造です。
親会社が大型企業であるにもかかわらず、売上が小さい子会社を分離して15%税率を適用するような形は、明確に否定されています。
改正ポイント③:法人税優遇対象業種の拡大!
📘【草案第12条】では、優遇税制の対象となる業種に以下が新たに追加される予定です。
- ハイテク企業・ハイテク農業企業(ハイテク法に基づく認定)
- 中小企業支援施設への投資(インキュベーター、コワーキングスペースなど)
- 新聞・メディア関連事業(報道法に基づく)
これにより、スタートアップやイノベーション分野への明確な後押しが加えられる形になります。おそらくですが以下のような事業かと。おそらく。報道がなぜ、優遇されるのか?はちょっと謎です。他のビジネスの優遇税制の適用は理解できますが。
業種カテゴリ | 想定されるビジネス内容 | 備考 |
---|---|---|
ハイテク企業 | ソフトウェア開発、AI・IoT・ロボット、半導体設計など | 「ハイテク企業認定」を受ける必要あり(High-Tech Law) |
ハイテク農業 | ドローン農業、スマート温室、水耕栽培、AIによる病害診断 | 「農業×IT」に該当する分野。法人設立形態が必要 |
科学・技術企業 | R&D機関、バイオ研究、再生可能エネルギー装置開発等 | 認証制度あり。単なる販売会社は対象外 |
中小企業支援施設 | スタートアップ向けのオフィス貸与、コンサル提供、育成事業 | コワーキング運営・アクセラレーター・VC連携型施設など |
メディア・報道 | オンライン新聞、地域紙、広告運営会社 | 法律に基づいた「報道活動」の一環であることが必要 |
改正ポイント④:免税・減税の期間・対象が明確に見直される
📘【草案第14条】によれば、法人所得に対する免税・減税制度が以下のように再設計されます。
区分 | 内容 |
---|---|
✅ 一般優遇 | 最大 4年間の全額免税 + その後9年間の50%減税 |
✅ 小規模優遇 | 最大 2年間の免税 + その後4年間の50%減税 |
✅ 起算点 | 所得発生年、売上発生年、認証書の発行年などに応じて柔軟に設定 |
さらに、「拡張投資(既存プロジェクトの拡大・更新)」に対しても:
- 固定資産価値が20%以上増加
- 生産能力が20%以上拡大
といった条件を満たせば、追加で得られる所得に対しても免税・減税が適用されます。
📌拡張投資に関しては、M&Aや既存プロジェクトの取得による拡大は対象外となります。あくまで物理的な拡張や新規設備導入が対象です。わかりやすく比較すると!
比較項目 | 現行制度(改正前) | 2025年改正案(草案第14条) |
---|---|---|
法律本文での規定 | 法律には明記されておらず、主に政令(例:Decree 218/2013/ND-CP)で運用 | 法律本文に明確に記載(草案第14条) |
優遇パターン | 投資インセンティブ:多くが「4年免税+9年50%減税」など(政令依存) | 下記のように法律上でパターンを明確化:① 最大4年免税+9年50%減税② 最大2年免税+4年50%減税(小規模ケース) |
起算点 | 実務上は「課税所得が初めて発生した年」 | 所得が発生しない場合にも備えた起算ルールを法律に明記:例:収入のみあって所得がない場合 → 売上発生3年後など(草案第14条第4項) |
対象範囲 | 主に新設投資が中心 | **拡張投資(規模・能力拡大)**にも明示的に適用可能(草案第14条第5項) |
明文化された条件 | 政令やガイドラインに委ねられていた | 設備投資・能力増加が20%以上など、明文化された条件あり(草案第14条第6項) |
✅ 総評:低税率&インセンティブの“本気度”がすごい!
中小企業や新興産業に対する支援という政策的メッセージがはっきりと読み取れる改正内容となっています。
その一方で、グループ企業による優遇の濫用を防ぐための厳格な適用条件も整備されており、制度の透明性・公平性が強化されたといえるでしょう。
最後に比較表としてまとめると以下の通り。
項目 | 現行制度(〜2025年9月30日) | 改正後制度(2025年10月1日〜) |
---|---|---|
標準税率 | 20%(2016年以降) | 20%(継続)※草案第10条第1項 |
中小企業向け低税率 | なし | 年間総収入30億VND以下:15%(約1,800万円未満) 年間総収入30億超〜500億VND以下:17%(約1,800万〜3億円)※草案第10条第2・3項 |
低税率の適用除外 | なし(そもそも低税率がない) | 以下の所得は適用除外:資本譲渡、不動産譲渡(社会住宅は除く)、海外事業所得、石油・鉱物の探査・採掘、特別消費税対象製品・サービスの製造、親会社・関係会社が要件不満足な場合の子会社など ※草案第18条 |
高税率(特殊業種) | 石油・鉱物探査:32〜50% | 石油・ガス:25〜50% 希少鉱物等:原則50%、特別困難地域に限り40% ※草案第10条第4項 |
優遇対象業種 | 一部に限られていた(高技術等) | 優遇対象を拡大:ハイテク企業、ハイテク農業、新聞・メディア、スタートアップ支援施設(インキュベーター等) ※草案第12条 |
免税・減税制度 | 政令などで規定。最大4年免税+その後減税など | 一般:4年免税+9年50%減税 小規模:2年免税+4年50%減税 ※草案第14条 |
拡張投資の優遇 | 明確な法的根拠なし(政令対応) | 設備・能力が20%以上増加する拡張投資に対して免税・減税適用可能 ※草案第14条第5項 |
優遇の起算点 | 通常は所得発生年に依拠 | 所得発生年、売上発生年、証明書発行年などの条件に応じて起算 ※草案第14条第4項 |
おおきな影響がありそうですね。
実務へのヒント💡:どう準備すればいい?
この改正をうまく活用するには:
✅ 前年度売上の管理(会計処理の正確さ)
✅ 関係会社の整理と適用条件の確認
✅ 投資プロジェクトの証明書や認証の取得タイミング
✅ 節税スキームとしてのグループ会社化には注意!
がポイントです。
項目 | 内容 |
---|---|
可決日 | 2025年6月14日(第15期国会 第9回会議にて可決) |
施行日 | 2025年10月1日 から |
適用対象年度 | **2025年度の法人所得税期間(決算年度)**から適用 |
出典(草案の説明文より)
“Luật Thuế thu nhập doanh nghiệp (sửa đổi) năm 2025 có hiệu lực thi hành từ ngày 01 tháng 10 năm 2025 và được áp dụng cho kỳ tính thuế thu nhập doanh nghiệp năm 2025.”
(2025年改正法人所得税法は、2025年10月1日から施行され、2025年度の法人所得税課税期間に適用される。)
まとめ:中小企業・ハイテク系・スタートアップには追い風!
今回の改正は、中小企業やベトナムでの事業立ち上げを考えている企業にとっては朗報です!
ただし、適用要件が細かく定められているので、「名義だけ小規模」に見せる節税構造はリスクあり⚠️
正式な法文が公布され次第、再度詳細に分析していきますので、ぜひまたチェックしてくださいね。
ご質問や「自社が対象になるか不安…」という方は、お気軽にマナボックスまでご相談ください!